靴を選ぶとき、甲の素材は見ても、底の素材まで見る人は少ないと思います。
でも底には、素材ごとにはっきりした得意と不得意があります。滑りにくいか、油に強いか、寒いと硬くなるか、しまっておくだけで傷むか。そして一部の靴には、底の素材を示す表示が法律にもとづいて付いています。
この記事では消費者庁の品質表示の規程、日本皮革産業連合会の皮革用語辞典、靴メーカー(ムーンスター)の素材解説から引用し、そこから先は編集部の見方として段落を分けて書きます。最後に出典をまとめました。
底は3つの層に分かれています
ムーンスターの解説はこう始まります。「「ソール(底)」と呼ばれる部分は、アウトソール、ミッドソール、インソールの3つに分かれています」。
アウトソールは「靴の裏側にあるパーツで、地面と直接触れる接地部分」。ミッドソールは「アウトソールの内側にあり、名前の通りソールの中間」で、「主に衝撃を吸収する素材が使用されており、足への負担軽減につながります」。
ここからは編集部の見方です。地面に触れる層と、衝撃を受ける層は、役割が違う。だから素材も同じとは限りません。この記事では、この2つを分けて考えます。
表示の対象になる靴では、底の表記は2種類です
家庭用品品質表示法にもとづく表示が必要な靴は、消費者庁の手引きによれば「甲に合成皮革を、本底にゴム、合成樹脂又はこれらの混合物を使用し、甲と本底とを接着剤により接着したものに限る」とされています。甲が布やメッシュの靴や、本革の靴は対象外です。
対象の靴の底材について、手引きはこう書いています。「ゴム(天然ゴム、合成ゴム、両者を混合したゴム)を用いている場合は「ゴム底」、合成樹脂又は合成樹脂とゴムとの混合物を用いている場合は「合成底」の用語を用いてそれぞれ表示する」。
ここからは編集部の見方です。この条文から読めるのは、分かれ目は樹脂が入っているかどうかだということです。
- ゴムだけなら、天然ゴムでも合成ゴムでも、その混合でも「ゴム底」
- 樹脂だけ、または樹脂とゴムを混ぜたものなら「合成底」
つまり「合成底」と書いてあったら、底に樹脂が入っている。合成ゴムでできていても、ゴムだけなら「ゴム底」です。「合成」という字から合成ゴムを想像すると、読み違えます。
もうひとつ。条文は「底材として使用する材料」の表示を求めています。編集部としては、この表記からミッドソールまで含めた底の中身が全部分かるとは限らないと考えています。気になるときは、商品ページや店で層ごとの素材を確かめてください。タグの探し方や表示全体の読み方は合成皮革と人工皮革の違いは基材です。そしてタグには、手入れの答えまで書かせてありますに書きました。
ゴム:滑りにくく、適度な弾性
ムーンスターの説明です。ゴム(ラバー)は「滑りにくく、適度な弾性がある」。「補強剤や加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤など多くの材料を混合(配合)し、熱と圧をかけて化学反応(加硫)させることで、耐久性を備えた様々な特性のあるゴムが生まれる」。
そして「ゴムの木から採れる「天然ゴム」は強度や弾性に優れる。石油から作られる「合成ゴム」はSBR(スチレンブタジエンゴム)という種類のものが靴づくりに最も使用され、こちらは耐摩耗性、耐老化性に優れる」。
ここからは編集部の見方です。天然と合成の違いは、さきほどの表示ではどちらも「ゴム底」になるので、タグでは区別できません。ただ「ゴム底」であれば、ムーンスターの言う滑りにくさが期待できる素材だということは読めます。雨の日にも履く革靴なら、底がゴムのものを選ぶ意味ははっきりあると思います。
ひとつ補足を。親に贈る靴、自分がこれから履く靴。つまずきにくい足元の4つで書いたとおり、高齢の方のつまずき予防の観点では、摩擦はかかとに要り、つま先には効きすぎないほうがいいとされています。滑り止めが強いほど誰にとってもいい、とは限りません。
クレープソール:クッション性がよく、油に弱い
ゴムの中でも独特なのがクレープソールです。日本皮革産業連合会の皮革用語辞典はこう説明しています。
「天然ゴム底、単にゴム底ともいう。天然ゴム液(ラテックス)を酢酸で凝固させたゴム板で作られた靴表底で、表面には波状、しぼ状その他の模様がある。このソールは油に弱いが、クッション性がよく、カジュアルシューズに広く使用されている」。
ここからは編集部の見方です。油に弱いというのは、使い道をはっきり分けてくれる一言だと思います。休日のカジュアルな靴としてクッション性を楽しむのは向いていて、飲食店の厨房や整備の現場のように、床に油が乗る場所には向かない。やわらかさと引き換えの弱点です。
選ぶときは、「クレープ風」の見た目をした別素材の底もあるので、素材欄で天然ゴムと書かれているかを見てください。
樹脂の底:PU、PVC、EVAは性質がかなり違います
ムーンスターは、アウトソールの素材としてゴムと革のほかに、3つの樹脂を挙げています。
PU(ポリウレタン)は「優れた耐摩耗性や弾力性、耐油性があり、ゴムと比較して軽いなどの特徴がある。熱可塑性樹脂の一種である「TPU」や、スポンジ状にして使用される「発泡PU」などの種類がある」。
PVC(ポリ塩化ビニル)は「製造が容易な材料の一つであるが、低温時には若干硬くなる性質があるため、一部製品の採用に留まっている」。
EVA(エチレン酢酸ビニル)は「非常に軽い素材。摩耗性や防滑性、耐久性に劣るため、アウトソールにはあまり使われないが、ラバーやその他の樹脂とブレンドすることで性質を改善し使用することもある」。
ここからは編集部の見方です。ムーンスター自身は「合成底」という表記とこの3つを結びつけてはいませんが、規程の「合成樹脂」に当たる素材として読むと、同じ「合成底」の中に、耐油性のあるもの(PU)、低温で若干硬くなるもの(PVC)、軽いけれど防滑性と耐久性に劣るもの(EVA)が入りうることになります。表記だけでは中身が分からないので、気になるなら素材名を確かめてください。
商品ページには「TPR」など、この記事の出典に出てこない表記が使われていることもあります。分からない略語があったら、店や販売元に聞くのが確実です。
そしてPUについては、もうひとつ。以前の記事で書いたとおり、ポリウレタンは水分と反応して分解する(加水分解)性質があり、メーカーは発泡ポリウレタン底について製造からの年数で発生頻度が上がると説明しています。摩耗に強いことと、年月に強いことは別の話です。詳しくは履いていないのに壊れる靴があります。履けない一足を、履かずに守る方法に書きました。
中の層:EVAとPU
アウトソールではあまり使われないEVAは、ミッドソールの素材として出てきます。ムーンスターのミッドソールの説明です。
「非常に軽い素材であるが、耐摩耗性や防滑性、耐久性に劣るため、アウトソールにはあまり使われない。従って、ゴム底と組み合わせてミッドソールとしての利用が大半である」。
同じページで、ミッドソールの素材としてPU(ポリウレタン)も「軽量で、適度な弾性と耐久性に優れている」と挙げられています。
ここからは編集部の見方です。EVAは使われ方の大半が、ゴムの底と組み合わせたミッドソールだということです。地面に触れるところはゴムで滑りにくさと減りにくさを、中の層で軽さとクッションを、という役割の分け方になっています。
だから軽くてクッションのある靴を探すときは、地面側がゴムかどうかを確かめてください。店では「アウトソールとミッドソールの素材を、それぞれ教えてください」と聞くと、答えが分かれて返ってきやすいと思います。
革底:透湿性となじみ。耐久性と防水性は劣る
最後に革の底です。ムーンスターの説明はこうです。「強度が要求されるため、アッパー用の革より厚く堅くなめされる。耐久性や防水性は他の底材と比較して劣るが、足馴染みが良く透湿性に優れ、見た目にも高級感があることから、紳士靴での採用が多い」。
ここからは編集部の見方です。革底の得意は蒸れにくさとなじみ、不得意は水と、減りやすさ。だから雨の日を避けられて、履く頻度がそれほど高くない靴、たとえば冠婚葬祭用や、ここぞという日の一足に向いていると思います。
水に弱い点の手当ては防水スプレーを玄関でかけてはいけません。かけ方の数字と、濡れた日の順番の最後で、減りやすさの手当て(かかとのゴムやハーフラバー)はその靴、あと何回直せますか。2か所の縫い目で分かる修理の限界と、寿命を延ばす4つの手当てで書きました。
「耐油性」は、滑りにくさの表示ではありません
厨房などで働く人のために、ひとつ書いておきます。表示の対象になる靴では、規程の試験に合格したものに限って、底の表記に「ゴム底(耐油性)」のような括弧書きを付けられます。
その試験は、試験用の油に浸けたときの体積変化率(膨らみ)と、甲と底の接着部の剥がれにくさを見るものです。
ここからは編集部の見方です。つまり「耐油性」は、油で底が傷みにくいことの表示で、油の床で滑りにくいことの表示ではありません。滑りにくさが必要なら、それは別の性能として確かめてください。そしてこの括弧書きは合格したものだけが名乗れる任意の表示なので、書かれていないからといって耐油性がないとは限りません。表示の対象外の靴には、そもそも付きません。
用途から逆に選ぶ
ここからは編集部の見方です。ここまでの出典を、使う場面から並べ直すとこうなります。
- 雨の日にも履く通勤靴:地面側がゴムのもの(滑りにくい)。革底は防水性が劣る
- 休日にクッション性を楽しむ靴:クレープソール。ただし油に弱い
- 床に油が乗る職場:クレープソールは避ける。PUは耐油性があるとされる。滑りにくさは別に確かめる
- 寒い日によく履く靴:PVCは低温時に若干硬くなる性質がある、と覚えておく
- 軽さとクッション:中の層がEVAやPUで、地面側がゴムのもの
- 蒸れにくさとなじみ:革底。雨の日を避けられる、履く頻度の高くない靴に
- 何年もしまっておく靴:PUが使われているものは、製造からの年数に注意
まとめ:表示の2語と、素材名を読む
整理します。表示の対象になる靴(甲が合成皮革・底を接着)では、底の表記は「ゴム底」と「合成底」。分かれ目は樹脂が入っているかどうかで、ゴムだけなら合成ゴムでも「ゴム底」、樹脂だけか樹脂とゴムの混合なら「合成底」です。
素材ごとの得意と不得意は、ゴムは滑りにくい、クレープはクッション性がよく油に弱い、PUは耐摩耗性と耐油性があるが加水分解する、PVCは低温時に若干硬くなる、EVAは非常に軽いが防滑性と耐久性に劣り、使われ方の大半はミッドソール、革は透湿性となじみがよく、耐久性と防水性は劣る。
まず1つだけやるなら、次に靴を買うとき、商品ページか店で「アウトソールとミッドソールの素材」を確かめることです。合成皮革の靴なら、タグの「ゴム底」「合成底」もあわせて見てください。それだけで、雨の日や寒い日にその靴をどう使うかが決まります。
出典
- 消費者庁「製品別品質表示の手引き 靴」(対象の定義、底材の表示、耐油性の試験)、「雑貨工業品品質表示規程(二十 靴)」
- 日本皮革産業連合会「皮革用語辞典 クレープソール」
- ムーンスター「アウトソールの種類」「ミッドソールの種類」
※本文の引用は2026年9月30日時点で各資料を確認したものです。














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