何年も箱に入れて取っておいたスニーカーを、久しぶりに出してみたら、ソールが崩れていた。
これは扱いが悪かったからではありません。この素材は、履いても履かなくても劣化します。そしてこの記事を読んでいる人の多くは、たぶん「たまに履いてください」では解決しない事情を抱えていると思います。未使用の状態に価値がある、手に入れ直せない、そもそもサイズが合っていない。
だからこの記事は、履かずに守るほうに重心を置きます。メーカーと修理店と公的機関が書いていることは引用し、そこから先は編集部の見方として分けて書きます。
先に、メーカーが認めていること
安全靴を作っているミドリ安全が、発泡ポリウレタン底の製品について自社サイトに説明を出しています。かなり踏み込んだ内容です。
まず利点から。「軽量でクッション性が良く、底減りしにくい」という特長があり、作業者の疲労軽減に寄与することから広く普及してまいりました。いい素材だから広まった、ということです。
そのうえで、こう書かれています。「しかしながら、発泡ポリウレタンの特性上、長期保管すると、ご使用の度合いにかかわらず劣化を生じ破損する場合があります」。
「ご使用の度合いにかかわらず」。ここがこの記事の全部です。履いた量とは関係なく進む、とメーカー自身が書いています。
原因も挙げられています。「この現象を『発泡ポリウレタンの加水分解』と言い、空気中の水分、水、酸、アルカリ、バクテリア、カビなどが劣化原因として挙げられます」。水だけでなく、カビやバクテリアまで並んでいます。
そして時期の目安。「一般的に製造後4年以上保管されていた状態で発生する頻度が上がります」。買ってから4年ではなく、製造からの年数です。
もうひとつ、この会社の対応が具体的です。今まで箱の内面に表示していた注意事項を外面に大きく表示し、さらに製造年月も追記して、注意書き用紙も同封するよう順次仕様変更していると書かれています。ここからは編集部の見方ですが、メーカーが箱の外に製造年月を書くようになったというのは、それだけ避けられない現象だということだと読んでいます。
自分の靴は該当するのか
問題になるのはポリウレタン系の素材です。修理チェーンのミスターミニットの解説にも、「履き心地の良い靴底素材の代表格・ポリウレタンは水に反応しやすく、加水分解を起こしやすいといわれています」とあります。
ここからは編集部の見方です。スニーカーの場合、見た目で素材を言い当てるのはかなり難しいと思います。白いクッション部分がポリウレタンとは限りません。同じ見た目でもEVAという別の樹脂のことがあり、そちらは加水分解とは違う劣化のしかたをします。ほかにも、空気を封入したユニットや、別系統の樹脂が使われているモデルがあります。
そして正直に書くと、スポーツブランドのスニーカーは、ミッドソールの樹脂が何かを公表していないことが多い。箱やタグを見ても書いていないのがふつうです。
だから編集部としては、素材を特定しようとするより、状態で見るほうが早いと考えています。見るのは3つ。指で押したときに粉が出るか。表面がべたついていないか。細かいひびが入っていないか。どれかが出ていれば、素材が何であれ進んでいます。
もうひとつ。この現象はソールだけの話ではありません。修理チェーンの解説では、ソールが崩れるだけでなく、接着が剥がれるという形でも出るとされています。底がきれいでも、剥がれてくることがあるということです。
防ぎ方は3つ。どれもお金がかかりません
ミスターミニットの解説が、防ぐための3点を挙げています。そのまま紹介します。
1つめ、定期的に履くこと。「履くことで素材が空気に触れ、湿気がこもりにくくなります。毎日同じ靴を履くのではなく、複数の靴をローテーションするのがベスト」とされています。
2つめ、保管場所を見直すこと。「湿気の多い下駄箱やクローゼットは加水分解の温床。理想は、風通しの良い玄関周りや部屋の隅など」。そして「もし下駄箱に保管する場合は、月に1〜2回は扉を開けて空気の入れ替えをしましょう」とあります。
3つめ、シーズンオフのケア。「保管時は、通気性のある袋や箱に入れ、湿気対策を忘れずに」とされています。
この3つは無料でできます。ただし、1つめの「定期的に履く」が使えない人がいる。次の章はそういう人向けです。
履かずに守るなら、まず測る:温湿度計
履けない一足をどう守るか。原因のひとつが空気中の水分なら、やることは湿気の管理になります。そして管理するには、まず数字が要ります。
目標値の手がかりになるものがあります。文部科学省の「カビ対策マニュアル」です。資料や作品を守るための文書ですが、こう書かれています。
「まずは相対湿度が65パーセントを恒常的に越えていないか監視してください」。そして「温度湿度は常時計測記録しましょう」。
加水分解の話ではなくカビの話です。ただ、さきほどのメーカーの説明で劣化原因にカビとバクテリアが挙げられていたことを思い出してください。編集部としては、湿気から物を守るという点で、この65パーセントという線は靴の保管にも読み替えられると考えています。
置き場所についても、同じマニュアルに具体的な注意があります。空調の吹き出し口の近くは、結露水が落ちてくることがあり、冷気が当たることで湿度が高くなりがち。そして「ステンレス製の棚板は熱伝導が早く室内でもっとも早く冷えるため結露」しやすい。
ここは効きます。スチールラックにスニーカーを並べている人は、棚板そのものが結露している可能性があるということです。エアコンの風が当たる位置も、涼しくて良さそうに見えて逆でした。
小さな温湿度計をひとつ、保管場所に置いてください。安いもので構いません。65パーセントを恒常的に超えていないか。それが分かるだけで、次に何をすればいいかが決まります。
靴の中の湿気を吸わせる:靴用の乾燥剤
ここからは編集部の見方です。数字が高かったとき、いちばん手前でできるのが乾燥剤です。
靴の中に入れておけるシリカゲルなら場所を取りませんし、繰り返し使えるタイプなら、干して戻すだけで毎年働いてくれます。
ただし注意がひとつ。入れっぱなしで忘れると、吸いきったあとはただの置物になります。長期保管する靴にこそ入れたいのに、長期保管する靴ほど点検されない。この矛盾があるので、乾燥剤を入れるなら、一緒に「いつ入れたか」を書いた紙を放り込んでおくくらいでちょうどいいと思います。
箱にしまうなら、空気が通るものを:通気のある収納
修理チェーンの案内には「通気性のある袋や箱に入れ、湿気対策を忘れずに」とありました。
ここからは編集部の見方です。透明で中身が見える密閉ケースは、並べて眺めるには向いていますが、中の湿気を閉じ込めたままにもできてしまいます。閉じるなら乾燥剤とセットにする。開けておくなら通気の穴があるもの。「閉じるだけ」がいちばん悪い、という整理が実用的だと考えています。
置く場所についてひとつ補足を。前の章のマニュアルには「部屋の隅」という言葉もありましたが、床への直置きは避けたいというのが編集部の見方です。湿気は低いところに溜まります。少し高い位置に、壁から離して。ただし前述のとおり、金属の棚板と空調の風下は避けてください。
空間ごと下げる:除湿機
ここも編集部の見方です。測ってみて、65パーセントを恒常的に超えているのが分かった場合。乾燥剤を靴ごとに入れていくより、空間そのものの湿度を下げるほうが早いことがあります。
何足も保管しているなら、そのほうが結果的に手間も少ない。クローゼットや押し入れに入る小型のものがあります。
そして、入れたらもう一度測ってください。下がっているかどうかを確かめるために温湿度計を先に置いた、という順番になります。効いていなければ、置き場所か機種が合っていないということです。
点検の周期と、修理のこと
どのくらいの頻度で見ればいいのか。さきほどのカビ対策マニュアルには、見回りについて「日常的に目を通すことができるのが理想的です。できれば半期から半年に一度の清掃の時にあわせて見回りをしてはいかがでしょう?」とあります。編集部としては、季節の変わり目に一度、箱を開けて底を押すくらいを目安にしています。
そして、すでに崩れはじめていた場合。捨てる前に修理という選択肢があります。ミスターミニットの解説には、「劣化してひび割れた靴底全体を剥がして、オールソール交換(靴底全体の交換)をすれば、履き心地は多少変わりますが、またご愛用いただけます」とあります。
ただし、できない場合も同じ解説に書かれています。ひとつは「加水分解している周辺も素材の劣化が進んでいる場合(剥がすときに靴全体が壊れてしまうので)」。もうひとつは「靴の形状が特殊(代替できるミッドソールなどの部材がないなど)」場合です。
ここで、スニーカーを持っている人には正直に書いておきます。後者は、スニーカーがまさに当てはまりやすい条件です。厚みも形も独特なミッドソールは、代わりの部材がありません。オールソール交換という言葉は、どちらかといえば革靴の修理を指していると考えたほうがいい。スニーカーの場合は、スニーカーの修理を専門にしている工房を探すことになります。
もうひとつ、前者について。これは編集部の推測ですが、劣化は進むものである以上、「周辺まで劣化が進んだ状態」に到達する前のほうが直せる可能性は高いはずです。出典がそう書いているわけではありませんが、「いつか直そう」と箱に戻すより、気づいた時点で相談するほうがいいと考えています。
安全のことも。崩れかけたソールで、いきなり外を歩かないでください。メーカーが「破損する場合があります」と書いている以上、歩行中に壊れることは想定される範囲です。久しぶりに出した一足は、家の中で底を押して確かめてから履いてください。
まとめ:履けないなら、湿度を測る
整理します。メーカーは発泡ポリウレタン底について「ご使用の度合いにかかわらず劣化を生じ破損する場合があります」と書き、製造後4年以上の保管で発生頻度が上がるとしています。履いても履かなくても進む、というのが出発点です。
履ける靴なら、修理店の言うとおりたまに履くのがいちばんの対策です。ただ、履けない一足を持っている人にとっては、それは答えになりません。
その場合にやることは湿気の管理です。まず温湿度計を置いて、相対湿度が65パーセントを恒常的に超えていないかを見る。超えていたら、乾燥剤か除湿機で下げる。金属の棚板と、空調の風下は避ける。そして季節の変わり目に一度、箱を開けて底を押す。
まず1つだけと言われたら、今日、保管場所に温湿度計をひとつ置くことです。守る対象が高価なほど、状態が分からないまま何年も置いておくこと自体がいちばんのリスクだと考えています。
箱を開けるのは、少し怖いかもしれません。それでも、開けたほうがいい。気づいた時点が、いちばん手が打てる時点です。














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