革靴にクリームを塗ったのに、いつまでも表面に残って曇る。数年で表面がひび割れた。同じ「革靴」なのに、友人の靴とは手入れの効き方がまるで違う。
理由のひとつは、革の表面に「膜」があるかどうかです。そして2024年3月に制定されたJIS K 6541:2024(革(レザー)―用語)は、その膜の厚さで革の名前を分けています。境目の数字は0.15ミリと3分の1です。
名前が分かれば、手入れの方向が決まります。この記事ではJISの定義と、シューケア用品の販売会社の資料から引用し、そこから先は編集部の見方として段落を分けて書きます。最後に出典をまとめました。
土台の定義と、0.15ミリの線
まず土台です。「革,レザー:皮本来の繊維構造をほぼ保ち,腐敗しないようになめした動物の皮」。注釈に「“天然皮革”又は“本革”ともいう」とあります。
そして同じ定義の別の注釈に、数字が出てきます。「仕上げ塗装,又は表面層を付与したものは,仕上げ塗装,又は表面層の厚さが0.15mm以下のものを革(レザー)という」。
では0.15ミリを超えたものは何と呼ぶのか。コートレザーという名前が別に定義されています。「表面に仕上げ塗装,合成樹脂などで表面層を付与したもので,仕上げ塗装,又は表面層の厚さが0.15mmを超えるが,塗装又は表面層を含む素材の厚さの3分の1を超えない革(レザー)」。
ここからは編集部の見方です。読み取れるのは、表面層が0.15ミリまでなら単に「革」、それを超えて3分の1までなら「コートレザー」という別の名前で呼ぶ、という線引きです。
ただし注意しておきたいのは、コートレザーを売り場で「本革」とだけ書いてよいかどうかまでは、今回の資料からは読み取れないということです。JISが決めているのは名前で、表示の仕方ではありません。この記事では、そこを断定しません。
0.15ミリは、ふつうのコピー用紙を1枚半重ねたくらいの厚みです。目で測れる差ではありません。だから名前を知っておく意味があります。
「3分の1まで」の革が、ほかにもあります
同じ「3分の1」の上限は、あと2つの名前にも出てきます。
エナメルレザーは「表面にワニス,ポリウレタンなどのエナメルを,革(レザー)全体の厚さの3分の1を超えない範囲で付与したもので,表面が高い光沢をもち,鏡面効果がある革(レザー)」。注釈に「“パテントレザー”ともいう」。
ラミネートレザーは「表面に高分子フィルムなどを,革全体の厚さの3分の1を超えない範囲で付与した革(レザー)」。
ここからは編集部の見方です。塗装、エナメル、フィルム。膜の種類は違っても、どれも表面に膜を足した革で、膜が全体の3分の1を超えないことが条件になっている。手入れを考えるときに大事なのは、名前より「膜がある側の革か、ない側の革か」だと思っています。
表面を残した革と、削ってから仕上げた革
膜の話とは別に、表面の層(銀面)を残しているかでも名前が分かれます。銀面とは、動物の皮のいちばん表の層のことです。
残しているのがフルグレインレザー(銀付き革)。「銀面層を完全に保持している革(レザー)」。
削っているのが銀すり革。「銀面をごく薄くサンドペーパーによる処理又はこれと類似の機械的処理によって除去した革(レザー)」。そして注釈に「仕上げを行った革(レザー)の代表的なものに“ガラス張り革(レザー)”がある」とあります。
つまりガラス張り革は、銀面をごく薄く削ったうえで仕上げをした革です。売り場では「ガラスレザー」と呼ばれていることが多いと思います。
なおJISは、ガラス張り革の仕上げ層が0.15ミリを超えるかどうか、つまりコートレザーに当たるかどうかまでは定めていません。この2つを同じものとして扱わないでください。
ガラス張りがどこで使われているかについては、シューケア用品の輸入販売会社(株式会社ルボウ)が運営する情報サイト「ShoesLife」がこう書いています。「ガラスレザーといえば、学生さんが履くローファーや、比較的安価な革靴によく使われる素材なので、馴染みの深い人も多いのではないでしょうか」。身近な素材だということです。
ガラス張りに、クリームは浸透しにくい
先に出典の性格を書いておきます。ShoesLifeはケア用品を販売している会社のサイトで、引用する記事も自社で扱う商品の紹介を兼ねています。記事の1本は「ガラスレザーにも効く靴クリームはある」というタイトルで、ガラスレザーに使えるクリームを紹介しています。
そのうえで、素材の構造についての説明は、JISの「仕上げを行った革」という定義とも食い違いません。この記事では、構造の説明は引用し、どの商品を選ぶかは参考程度に扱います。
構造についてはこうです。「ガラスレザーは皮革の表面を樹脂でコーティングされている特殊皮革なので、靴クリームをどれだけ塗布しても浸透しません」。同じ会社の別の記事では「クリームを塗布したとしても革の奥まで浸透しにくく、革に栄養を与えることがそもそも難しいです」という書き方もしています。
利点も挙がっています。「樹脂コーティングで皮革がカバーされているため皮革自体が雨水にさらされることはなく、雨による皮革のダメージがほぼないという利点があります」。表面がつるつるしているので汚れも拭き取りやすい、とも。
ただし手入れ不要ではないとされています。「何もお手入れをしないとスムースレザー同様、乾燥や劣化により、様々なトラブルが起きてしまうので、皮革を守っている樹脂コーティングを保護してあげる必要があります」。そして「一度コーティングに傷がついてしまうと修復が難しい」。
同社が日常の手入れとして勧めているのは、「汚れを落とすクリーナーと保湿・保革効果を兼ねたオールインワンタイプのケア用品」。そして仕上げのポリッシュ(油性ワックス)で、理由は「光沢感を維持する目的だけでなく、ガラスレザーの樹脂コーティングの劣化を防ぐため」とされています。
クリームで曇る件についても書かれています。「物にもよりますが、ガラスレザーに靴クリームを塗ると表面が曇ってしまうことが多かったのですが、もしかするとガラスレザーには靴クリームが浸透しにくいため、なじみきらない靴クリームが原因だったかもしれません」。そして「ポリッシュならワックス比率が高いので、うす塗りで十分ツヤ出し効果を発揮してくれるのでなじみきらずにかえってくもってしまうというようなことが起こりにくいです」。
ここからは編集部の見方です。ガラス張りの手入れの目的を「革に栄養を入れる」から「表面の膜を守る」に切り替えると、やることがはっきりすると思います。汚れを落とす、薄く膜を足す。ワックスはうす塗りがポイントで、厚く重ねる鏡面磨きの話とは別だと考えてください。
このワックスはガラス張り向けです。次に書くエナメルには、専用のものを使ってください。
エナメルは、下地が革とは限りません
JISのエナメルレザーは革ですが、見た目が同じエナメルでも、下地が革とは限りません。ShoesLifeのエナメルの記事にこうあります。「天然皮革以外にも、合成皮革や目の詰まった布地(織物)にコーティングしたものも同様にエナメル素材に分類されるので、パッと見で下地の素材が革かどうかを見分けるのは難しい」。
弱点も挙げられています。「高温多湿にめっぽう弱い」「無理な屈曲に弱い」「キズの補修が難しい」「色移りしやすい」。原因はコーティングのウレタン樹脂で、熱では「過剰にやわらかくなってしまったり、ウレタン樹脂とベースの皮革が剥離してしまったり、最悪溶け出してベタつきが発生」。湿気については「空気中の湿気であっても、エナメルを構成するウレタン樹脂は加水分解という劣化を引き起こします」とあり、「完全な回避や予防は困難とされています」。
補修も難しい。「ウレタン樹脂のコーティングは浸透性がないため、補色クリームを塗ろうにも素材になじまず浮いた仕上がりになってしまいます」。
手入れの道具として挙がっているのは、ほこり落とし用のブラシ、コットンのクロス、エナメル専用のローション。日常は「できれば気づいた時に(靴は脱ぎ履きする時に)コットンクロスで乾拭き」です。
乾拭きのクロスは、薬剤の染み込んでいない綿のものを選んでください。つや出し剤入りのクロスは用途が違います。ガラス張りの汚れを拭くのにも使えます。
保管についても具体的です。「湿気を吸ってしまう紙箱には入れず、不織布などで包んでから湿気の溜まりにくいクローゼットの上段で保管してください」。熱については「年中温度差がなく、できるだけ涼しい場所で保管してください」。
ここからは編集部の見方です。買った箱にそのまま戻してしまう人は多いと思いますが、エナメルについては販売会社がはっきり避けるよう書いているということです。袋を選ぶときは、密閉するタイプではなく通気するものを。加水分解の話は履いていないのに壊れる靴があります。履けない一足を、履かずに守る方法に詳しく書きました。
床革と、粉砕した素材
もうひとつ、層の話があります。床革(スプリットレザー)は「なめし前後に複数の層に分割する場合があるが,表面(銀面)層がない下層部分を腐敗しないようになめした皮」。厚い皮を割ったときの、銀面のない下のほうです。
この床革はスエードの定義に出てきます。スエードは「革(レザー)の裏面(肉面)又は床革の使用面を,サンドペーパー,又は類似の機械的処理によって毛羽を短くそろえた革(レザー)」。いっぽうヌバックは「銀面をサンドペーパーなどで短く毛羽立たせた革」で、こちらは表を削っています。起毛革の手入れはスエードにクリームを塗ると、毛が潰れます。起毛革の手入れは「塗らずに、吹いて、起こす」に書きました。
そして線の外側にあるもの。革の定義の注釈に「革(レザー)を機械的,又は化学的に繊維状,小片又は粉末状に粉砕し,樹脂などの使用の有無にかかわらず,シート状などに加工したものは革(レザー)とはいわない」。その名前は皮革繊維再生複合材(革を粉砕したものを乾燥質量で50%以上配合)で、注釈に「“再生革”又は“リサイクルレザー”という用語は正しくない」とあります。原料が革でも、粉にしてシートにしたら革とは呼ばないということです。
店で聞くことは、2つで足ります
ここからは編集部の見方です。0.15ミリの差は目では測れませんし、膜が薄ければ見た目で迷う靴もあります。通販の素材欄も「牛革」だけのことが多いと思います。だから買う前に聞いておくのが確実です。
聞く目的は、良い革か悪い革かを確かめることではありません。家に帰ってからの手入れを間違えないことです。それなら質問は2つで足ります。
- 「銀付きですか、ガラスレザーですか」(表面を残した革か、削って仕上げた革か)
- 「表面に塗装やコーティングの膜はありますか」(膜のある側の革か、ない側の革か)
エナメルなら、もうひとつ。「下地は革ですか」。見た目では分かりにくいと販売会社も書いているので、聞くのがいちばん早いです。
答えごとの手入れの方向は、こう考えています。
- 銀付きで、膜がない:クリームが入る側の革です。ふつうのスムースレザーの手入れで考えてください
- ガラスレザー:上に書いたとおり、クリームは浸透しにくい。汚れを落として、薄く膜を足す
- エナメル:専用のローションと乾拭き。紙箱に入れず、涼しい場所に
- コートレザー・ラミネートと言われた:今回の資料には手入れの記述がありませんでした。その場で店に手入れの方法を聞いてください
通販で答えが分からない場合は、問い合わせてみる価値があります。返事が「牛革です」だけだったら、届いてから目立たないところで少量のクリームを試し、入っていくかを見るのが、編集部としては現実的な確かめ方だと思います。
まとめ:膜があるかないかで、手入れが分かれる
整理します。JIS K 6541:2024では、表面層が0.15ミリ以下なら「革」、超えて全体の3分の1までなら「コートレザー」。エナメルレザーとラミネートレザーも3分の1が上限です。銀面を残したのがフルグレイン(銀付き)、削って仕上げた代表がガラス張り。そして粉砕してシートにしたものは、原料が革でも革とは呼びません。
手入れは膜で分かれます。ガラス張りはクリームが浸透しにくく、膜を守る手入れ。エナメルは専用ローションと乾拭き、紙箱に入れない。
まず1つだけやるなら、次に革靴を買うとき「銀付きですか、ガラスレザーですか」と聞いてみることです。その一言で、家に帰ってからやることが決まります。
合成皮革との違いやタグの読み方は合成皮革と人工皮革の違いは基材です。そしてタグには、手入れの答えまで書かせてありますに、牛革の呼び名はカーフ、キップ、ステア。同じ牛の革を分けているのは、重さと性別と年齢ですに書きました。
出典
- 一般社団法人 日本皮革産業連合会「「革」「レザー」の用語がJISにて制定」(2024年7月9日)に抜粋掲載されたJIS K 6541:2024 革(レザー)―用語(3.1.1、3.1.2、3.4.1、3.4.5、3.4.6、3.4.8、3.4.10、3.4.11、3.4.12、3.5.1)
- ShoesLife(株式会社ルボウ運営。シューケア用品の輸入販売会社で、以下の記事は自社取扱商品の紹介を含みます)「ガラスレザーにも効く靴クリームはある」「ガラスレザーとは?」「エナメル革(パテントレザー)とは? 弱点と正しい手入れ」「エナメル革のお手入れ」
※本文の引用は2026年9月29日時点で各資料を確認したものです。規格や各社の見解は変わることがあります。














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