底が減ってきた。かかとが斜めに削れている。買い替えるか、直すか。
この判断には、実は先に確かめるべきことがあります。その靴がそもそも直せる作りなのか、そして直せるとして、あと何回まで直せるのか。これは好みや値段の話ではなく、靴の構造で決まっています。しかも、2か所を見るだけで分かります。
先に、2か所の縫い目を見てください
靴の底と上の部分をどうやって留めているか。ここで修理の可否がほぼ決まります。見るべき場所は2つ、底の面と中底です。片方だけでは判別できません。
まず靴をひっくり返して底の面を見ます。縫い目があるか。あるとしたら、コバのきわを一周しているか、少し内側に入ったところを走っているか。次に中敷きをめくって中底を見ます。足が乗る面に縫い目が出ているかどうか。この2つの組み合わせで製法が分かります。
底のコバぎわに縫い目があり、中底には縫い目がない。これがグッドイヤーウェルトです。上の革と底のあいだに「ウェルト」という細い革を挟み、そこを介して縫っています。底を外しても本体側に縫い代が残るので、繰り返し張り替えられます。
底のコバぎわに縫い目があり、しかも中底にも縫い目がある。これはブラックラピドという製法です。上の革と中底をマッケイのやり方で縫い、そのうえで底を出し縫いで留めている複合型で、見た目はグッドイヤーとほとんど変わりません。公式の解説でも、中底に糸があるかないかが唯一の見た目の違いだとされています。ここを知らないと、次に説明するマッケイと取り違えます。
底の縫い目がコバから内側に入ったところを走っていて、中底にも縫い目がある。これがマッケイです。上の革と中底と底を直接縫い留めています。張り替えはできますが、縫うたびに同じところへ針を通すので回数に限りがあり、1回から3回程度が目安だとされます。
どこにも縫い目がない。これはセメント式で、接着で留めています。多くのスニーカーや、手に取りやすい価格帯の革靴がこれです。交換は難しくなりますが、できないと決まったわけではありません。セメント式のオールソールを受けている修理店はあるので、気に入った一足なら相談してみる価値はあります。
整理すると、中底の縫い目は「マッケイの針が通っているか」の印、底のコバぎわの縫い目は「出し縫いがあるか」の印です。片方だけ見ると、ブラックラピドをグッドイヤーだと思ったり、中底だけ見てマッケイだと決めつけたりします。
そのうえで、修理に出すまでのあいだに寿命を延ばす手当てを4つ紹介します。順番にも意味があります。
まず1か所だけ見るなら。いちばん先に減る場所:かかとのゴム
靴でいちばん先に減るのは、かかとの後ろの外側です。体重の移動がかかとの外側から始まるからで、左右とも外側の角が斜めに削れていきます。ここに付いているゴムの部品をトップリフトと呼び、減ったら交換できる消耗品として設計されています。
交換の目安は、厚みが半分くらいになったときだとされています。ここで大事なのは、均一に減ることは稀だということ。いちばん削れている場所を基準に見てください。全体としてはまだ残っているように見えても、外側の角だけ半分を割っていることはよくあります。
ここを逃すと厄介です。トップリフトを削り切ると、その下にあるヒールの積み上げ、つまり靴の本体側が削れ始めます。そうなると交換ではなく、積み上げに革を足す修理という一段大きな作業になります。
ときどきかかとを覗いて減り方を見てください。片方だけ極端に減る、内側が減るといった癖は、歩き方や足の傾きの手がかりでもあります。自分で貼る補修材は、次の休みまで持たせたい、旅行中にどうにかしたい、という場面で役に立ちます。ただし恒久的な修理ではありません。大事な靴なら、削り切る前に修理店へ持っていくほうが結局は安く済みます。
革底が心配な人へ。ただし全員に必要ではない:ハーフラバー
革の底の前半分に薄いゴムを貼る修理です。減りやすい部分を守り、雨の日に滑りにくくなる効果もあります。ただし勧める人と勧めない人が分かれる話で、目的は革底の保護なので、そもそも減るほど履かないなら意味は薄い。月に数えるほどしか履かない一足なら、革のまま履いて減ってきたら考えるでも間に合います。
逆に、週に何度も履く、通勤で毎日歩く、というなら効きます。判断の軸は頻度です。そして貼るなら早い段階。革底は薄くなってから貼っても手遅れで、守るものが残っていない状態になります。
順番についてひとつ。ハーフラバーを検討する前に、まずかかとの状態を見てください。前の章に書いたとおり、先に減るのはかかとです。そちらを放っておいてつま先側だけ守っても、順番が合っていません。
自分で貼るタイプの製品もあります。ただし、貼り方を間違えると剥がすときに革底を傷めます。高い靴や、あとでオールソールに出すつもりの靴には使わないほうが無難です。
修理の回数そのものを減らしたい人へ。形を保つ:シューキーパー
ここまでは減った部分を直す話でしたが、そもそも直す回数を減らす方向もあります。
革靴は歩くたびに指の付け根で曲がります。脱いだあとそのままにすると折りジワが深く残り、そこだけ革が薄くなって、最後には割れる。底は直せますが、甲の革が割れたら簡単ではありません。シューキーパーは、脱いだ靴を内側から押し広げてそのシワを伸ばす道具です。木のものは湿気も吸います。
選ぶときに見るところは3つあります。ひとつはサイズ表記。多くの製品はSやMではなくセンチで対応が書かれているので、自分の靴の実寸に合うものを選びます。ふたつめはつま先の形。丸いつま先の靴に尖った形のものを入れると、そこだけ押されて歪みます。みっつめは伸ばし方の仕組みで、バネで押し広げるタイプとネジで長さを決めるタイプがあります。バネ式は入れるのが簡単なぶん、常に押し続けるので、ゆるい力のものを選んでください。
逆に言えば、形が合っていないものを無理に押し込むと、型崩れを直すつもりで型崩れを作ることになります。入れるタイミングは、脱いですぐではなく少し湿気が抜けてから、という考え方もあります。いずれにしても、下駄箱に放り込む前に入れる習慣がつけば、それだけで修理に出す回数が変わります。
履き口が広がってきた人へ。地味だが効く:靴べら
最後は、修理という言葉から最も遠く見えて、実は修理を減らす道具です。
靴を履くとき、かかとを踏んで足を押し込んでいませんか。あれをやると、かかとの後ろの芯が潰れます。ここには月型芯という硬い部品が入っていて、かかとの形を保ち、足を後ろで固定している。潰れるとぐにゃりとして、足が中で動くようになります。
そして、この部分の修理は簡単ではありません。底を張り替えるのとは違って、靴の内側の構造に手を入れることになります。つまり「直せる作りの靴なのに、直しにくい壊れ方をした」という状態です。専門店には芯材を入れ替えるメニューもあるので、潰してしまった靴を諦める必要はありませんが、底の交換より手間のかかる作業になることは知っておいてください。
靴べらを1本、玄関に置いておく。それだけでこの壊れ方を避けられます。外出先で靴を脱ぐ機会が多い人は、携帯できる小さなものを鞄に入れておくと確実です。数百円の道具で、直しにくい壊れ方をひとつ消せる。費用対効果でいえば、この記事でいちばん大きいかもしれません。
まとめ:直せる靴を、直せるうちに出す
手当ての順番はこうです。まずかかとのゴムを見る。よく履く靴なら革底にハーフラバーを検討する。脱いだらシューキーパーを入れる。履くときは靴べらを使う。
まず1つだけと言われたら、靴べらです。地味ですが、いちばん安く、いちばん直しにくい壊れ方を防げるからです。減った底は張り替えられますが、潰れたかかとの芯はそう簡単ではありません。
そして、タイトルに掲げた問いに答えます。あと何回直せるのか。
グッドイヤーウェルトの靴でも、無限に張り替えられるわけではありません。修理店の説明では、オールソールは2回から3回程度が目安とされています。限界を決めているのは靴の本体ではなく、縫い代であるウェルトです。太い針で何度も縫われるうちに、ウェルトのほうが先に傷んでいきます。
ただし、ここで終わりではありません。リウェルトという、ウェルトそのものを新しいものに交換する修理があります。これをやると、そこからさらに2回から3回のオールソールが可能になるとされています。つまり合わせれば、かなりの年数を一足で通せる計算になります。この選択肢を知らずに買い替えてしまう人は、たぶん多い。
ブラックラピドの靴も、底は出し縫いで留まっているので繰り返し交換できます。マッケイの場合は1回から3回が目安なので、何回目かを数えておいてください。いずれの製法でも、1回目を出すときに店で「あと何回いけそうか」を聞いておくと、次の判断が楽になります。
そしてどの製法でも共通するのが、出すタイミングです。答えは「減りきる前」。底を減らしすぎると、その下のウェルトや縫い目まで傷みます。「まだ履けるから」と粘るほど、選択肢は減っていきます。
逆に、直さないほうがいい場合もあります。判断の目安を4つ。甲の革が割れている。ウェルトまで削れて縫い目が痩せている。かかとの芯が潰れて足が固定されない。そもそもサイズが合っていない。このうち2つ以上あてはまるなら、直しても満足しない可能性が高い。とくに最後のひとつは、直しても解決しません。合わない靴を修理して履き続けるのは、いちばんもったいない使い方です。
最後に、修理に出すときのことを。費用も対応も店によってかなり違うので、この記事では金額に触れません。ただ、持っていく前に写真を撮っておくこと、そして直したい箇所と「このまま履き続けたい」という意図を口で伝えることをおすすめします。どこまでやるかの判断は、店側も迷うところです。長く履きたい一足なら、その意図が伝わっているかどうかで仕上がりが変わります。














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