革靴の商品ページを見ていると、素材の欄に「カーフ」「ステアレザー」「キップ」と書いてあることがあります。なんとなく高そうなのがカーフ、というくらいは分かる。でも何が違うのかと聞かれると、答えに詰まります。
実はこれ、全部牛の革です。違うのは、どんな牛から取ったか。そしてその呼び分けには、はっきりした決まりがあります。
この記事では、定義は日本皮革産業連合会の皮革用語辞典から引用し、そこから先の「だからこういう靴に向く」という見立ては、私たちの考えとして分けて書きます。辞典に書いてあることと、書いていないことを混ぜないためです。
先に、「スキン」と「ハイド」は重さの境目です
名前をよく見ると、語尾が2種類あります。「カーフスキン」「キップスキン」と、「ステアハイド」「カウハイド」。ここにまず意味があります。
辞典の「スキン」の項には「小動物の皮。小判で薄くて軽い。牛皮では、その重量が30ポンド(13.6kg)以下のものがスキンとなる」。そして「ハイド」の項には「大動物の皮。大判で厚くて重い。牛皮では、その重量が30ポンド(13.6kg)以上のものがハイドとなる」。
つまり語尾の「スキン」と「ハイド」は、重さの境目を表しています。牛の皮なら、13.6キロ以下がスキン、それ以上がハイドです。
では前半の「カーフ」「ステア」は何を表しているのか。辞典のカーフスキンの項に、答えになる一文があります。「6.8キログラム以上のものは、重さや性別によって、キップスキン、ステアハイドと呼ばれるようになる」。名前は重さと性別で分かれていく、ということです。
ここから先を整理すると、こうなります。若い牛(カーフとキップ)は、主に重さで線が引かれている。成牛(ステア、カウ、ブル)は、性別と年齢で名前が分かれている。順に見ていきます。
言葉の整理をひとつ。辞典は「皮」と書いています。これはなめす前の状態のことで、同じ辞典の「革」の項には、動物の皮を脱毛し、鞣して得られる製品が革だとあります。靴になっているのは「革」ですが、名前は原料の段階で決まっている、ということです。
いちばん若い牛の革。最高級とされる:カーフ
辞典の定義はこうです。「生後6ヵ月以内の子牛の皮。成牛皮よりもやわらかく、きめが細かいため、最高級の皮とされている。重量は6.8キログラム以下で、特に軽いものをライトカーフという」。
年齢と重さ、両方で線が引かれています。生後6か月以内で、6.8キロ以下。そして性質として書かれているのは「やわらかく、きめが細かい」の2つです。
ここからは私たちの見立てです。やわらかい革は、そのぶん爪や角に当たったときの傷も残りやすいと考えています。雨の日に気にせず履き倒す一足より、手入れをしながら長く付き合う一足に向いている。商品ページで「カーフ」と書いてあったら、きめの細かさに値段を払っていて、手入れの手間も一緒に買っている、と読むのがいいと思います。
子牛と成牛のあいだ。中牛皮とも呼ばれる:キップ
辞典には「年齢、品質が子牛と成牛の間に当たるウシの皮。中牛皮と呼ばれることもあり、その中でも重量のあるものは、オーバーウェイトキップという。重量は6.8キログラム〜13.5キログラム」とあります。
カーフの上限が6.8キロだったので、そこからそのまま続いています。そして上限の13.5キロは、スキンとハイドの境目のあたりです。キップまでがスキンの側だと考えると、名前の語尾とも合います。
辞典が性質として書いているのは「品質が子牛と成牛の間」ということだけです。ここからは見立てになりますが、カーフに近い見た目を持ちながら、カーフほど気を使わずに済む、というのがキップの立ち位置だと考えています。毎日履く一足として、ちょうどいい落としどころです。
成牛の革の代表格。製革業の主原料:ステア
ここから成牛の革です。辞典の「成牛皮」の項には、「カーフスキン及びキップスキン以外の牛皮。大判で厚く、線維組織が比較的均一で充実し、強度及び耐久性のある革となる」とあり、主な種類としてステアハイドとカウハイドがあり、製革業の主原料となっていると書かれています。
そのステアの定義は「生後数ヵ月で去勢をした牡牛の皮」。ここで初めて性別が名前に入ってきます。さらに重さによってエクストリームライトステア、ライトステア、ヘビーステアに分けられる、とあります。
カーフのきめの細かさはないかわりに、成牛皮として強度と耐久性がある。これは辞典の記述です。私たちの見立てとしては、日常の通勤で気兼ねなく履く一足にいちばん向いている革だと思います。
牝牛と、去勢していない牡牛:カウとブル
成牛にはあと2つ、名前があります。ここは辞典の記述そのものが面白いので、ほぼそのまま紹介します。
カウハイドは「生後2年を経過した牝牛の皮」。牡牛と比べると柔らかく、カーフスキンと比べると厚くて丈夫とされています。そして定義には、少しどきっとする一文があります。「出産を経験しているため、腹部の革がゆるく、繊維のきめがやや粗いのも特徴」。用途にはくつやくつ底、バッグ、ベルト、家具が挙げられています。
ブルハイドは「生後2年を経過した、去勢をしていない牡成牛の皮」。「頭、首、肩部が極めて厚く、傷がある場合が多い」とされ、用途には「耐久性を重視する靴底」やライダースジャケットが挙げられています。
ここで気づくことがあります。カウにもブルにも、用途に「靴底」が入っている。革靴の「革」は甲だけではなく、革底の靴なら底もまた牛の革です。甲にはきめの細かい若い牛の革が使われ、底には厚い成牛の革が使われる。一足の中に、違う牛の革が同居しているわけです。
名前と同じくらい大事なこと。表面をどう仕上げたか:ガラス張り革
ここまでの名前は、どの牛から取ったかを教えてくれます。ただ、靴の当たり外れを分けるのはそれだけではありません。表面をどう仕上げたかも、同じくらい効いてきます。
辞典には「銀付き革」という言葉があります。「天然皮革の銀面を活かした革」で、ガラス張り革やスエードなどと区別するために用いられる名称。銀面というのは革の表側のことです。
対して「ガラス張り革」。辞典の説明では「成牛皮で銀面の粗いものや損傷のあるものをバフィング(銀磨り)により修正して平滑に仕上げた革」で、表面は塗装で仕上げられています。コレクトグレインとも呼ばれます。そして辞典ははっきり、「裁断歩留まりは良いが、ネット張り乾燥を行った銀付き革より風合いが劣る」と書いています。用途には靴の甲革も挙がっています。
ここからは見立てです。ガラス張り革は、表面が塗装で整えられているぶん、手入れの手間は少なくて済むと考えています。風合いは銀付き革に劣る、と辞典が書いているとおりですが、気軽に履ける実用の一足として割り切るなら、選択肢になります。大事なのは、それを分かって買うことです。
もうひとつ、知っておくといいのが「床革」です。辞典によれば「皮革の銀面を取り除いた、下層部分」で、現在では表面を厚く塗装したり、銀面を模したプラスチックシートを施したりして、様々な用途に利用されているとあります。見た目は表側の革に似せてあっても、中身は下の層、ということがあるわけです。
商品ページの素材欄を読むときに
ここまでを踏まえて、読み方を3つにまとめます。ここは私たちの考えです。
ひとつめ。「カーフ」「キップ」「ステア」は、どの牛かを教えてくれる。ただし仕上げは教えてくれません。同じステアでも、銀付き革かガラス張り革かで別の靴になります。できれば素材欄に「銀付き」「ガラスレザー」「スムース」といった言葉がないかも見てください。
ふたつめ。「牛革」「本革」とだけ書いてある場合は、それ以上のことは分かりません。どの牛か、どう仕上げたか、どちらも書かれていないからです。気になるなら、販売元に聞くのがいちばん確実です。
三つめ。高いほうがいい靴、とは限りません。カーフはきめが細かくやわらかい。成牛の革は強度と耐久性がある。どちらが上かではなく、どう使うかで選ぶものだと思います。
まとめ:語尾は重さ、若い牛は重さで、成牛は性別と年齢で
整理します。語尾の「スキン」と「ハイド」は、牛皮なら13.6キロが境目。スキンの側に、6.8キロ以下で生後6か月以内のカーフと、6.8から13.5キロのキップ。ハイドの側に、去勢した牡のステア、生後2年を経た牝のカウ、去勢していない牡のブル。
選び方の目安も書いておきます。これは私たちの見立てです。手入れを楽しみたい一足ならカーフ。見た目と扱いやすさのバランスを取るならキップ。毎日の通勤で気兼ねなく履くならステア。手入れの手間を減らしたい実用の一足なら、ガラス張り革という選択肢もあります。
まず1足だけと言われたら、ステアの革靴です。成牛皮として強度と耐久性があります。そのうえで、素材欄に「銀付き」や「スムース」とあるかを確かめてください。表側の革をそのまま活かしたものなら、手入れをするほど育っていきます。
牛の革に限って言えば、名前の仕組みが分かっていれば、知らない名前が出てきても見当がつきます。靴の素材欄に書いてあるのは、一頭の牛の重さと性別と年齢です。そう思って読むと、少しだけ靴の見え方が変わると思います。














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