革靴は3足あったほうがいい、とよく言われます。1日履いたら2日休ませるから3足、という計算です。1足しか持っていない人にとっては、なかなかの負担です。
この記事では、メーカーが実際に何と書いているのかを引用し、そこから先は編集部の見方として分けて書きます。先に言っておくと、足数の答えを数字で書いているメーカーは、そう多くありません。
先に、今日できること。1足しかない人へ
買う話の前に、お金がかからないことから。ここは編集部の見方です。
帰ったら、すぐ靴箱に入れないこと。玄関に出したまま一晩おいて、翌朝しまう。これだけで、湿気を抱えたまま閉じ込める時間が減ります。1足しか持っていないなら、なおさら効きます。
そしてその1足が、まだ助かるのかを確かめてください。見るのは3か所。かかとのゴムが斜めに削れていないか。履きジワの谷に割れが入っていないか。かかとの内側の裏地が擦り切れていないか。
ここで何か見つかったなら、話は足数ではありません。修理か買い替えが先です。毎日1足を履き続けてきた靴は、たいてい何かしら出ています。
メーカーが書いていること
足数について数字を出しているものを探して、見つかったのが1社でした。アシックスです。ただしスポーツシューズのメーカーなので、革靴の話としてそのまま使えるわけではありません。そこは先にお断りします。
公式サイトのお手入れのページに、こういう項目があります。見出しがいい言い方です。「長くお使いいただくために。シューズにも休日をあげてください。」
「お気に入りのシューズも、毎日履かれると早く寿命がきます。2足以上のシューズを交互に履く。3日に一度位は休ませる。出来るだけ通気が良く、高温多湿を避けたところで保管してください。これがシューズを長持ちさせる秘訣です」。
数字が2つあります。2足以上と、3日に一度位は休ませる。
では革靴のメーカーはどうか。マドラスの公式サイトにも保管の案内がありますが、足数についての記述は見つかりませんでした。書かれているのは、置いておく側の条件です。
「汚れが付いたまま長期間経過しますと、革の劣化やカビの発生につながります。定期的にお手入れをしましょう。特に長期間履かずに保管する場合は、必ずお手入れしてから保管しましょう」。そして「シュートゥリーはシワを伸ばし型くずれを防ぐとともに、湿気を吸収します。保管時は必ずシュートゥリーを入れましょう」。
ここからは編集部の見方です。この2社が答えているのは「何足持つか」ではなく、「毎日履くな」と「置いておくならこうしろ」でした。足数は結果であって、目的として語られてはいない、と読んでいます。
「3日に一度」の読み方は、一つに決められません
ここは正直に書きます。さきほどの「3日に一度位は休ませる」には、少なくとも2通りの読み方があります。
ひとつめ。3日のうち1日は休ませる、という読み方。2日続けて履いてもいいことになります。この読みなら2足で足ります。
ふたつめ。1足を3日に一度の登板にする、という読み方。この読みだと3足要ります。よく言われる「3足必要」は、こちらに近い考え方だと思います。
どちらが正しいかは、書かれている文だけでは決められません。「位」という言葉で濁されている以上、精密な計算の土台にはできないと考えています。そしてもうひとつ大事なのは、「2足以上」は下限だということです。3足も4足も「2足以上」に含まれます。2足で十分とは、どこにも書かれていません。
そのうえで、編集部として計算してみます。使うのは解釈ではなく、実際の生活です。
仕事で革靴を履くのは、多くの人が平日の5日です。土日は履きません。この5日を2足で交互に回すと、1足あたりの稼働は週に2日か3日。しかも土日で必ず2日続けて休みます。連続着用は最大でも1日おきで、週末にまとまった乾燥時間が入る。
この形なら、「毎日履かれると早く寿命がきます」という警告からは、はっきり抜け出せています。3足あるほうがもちろん余裕はありますが、1足から2足への一歩が、いちばん大きい。そこが編集部の結論です。
2足目に何を買うか
ここも編集部の見方です。2足目は1足目と同じものを買わないほうがいいと考えています。同じものが2足あると、交互に履く目的は果たせますが、天気や場面で選べません。
埋めやすいのは黒の紐靴です。とくに、紐穴の部分が甲に潜り込んだ「内羽根」で、つま先に横一文字の切り替えが入った「ストレートチップ」。仕事で使えて、格式のある場でも通りやすい形とされています。
ただし、弔事に備える一足として買うなら条件が増えます。黒。内羽根。飾りの金具がない。エナメルのような強い光沢がない。つま先に穴飾りが入っていない。ここまで揃えてください。同じ「内羽根ストレートチップ」で検索しても、金具付きや光沢の強いものが混ざります。なお作法は地域や家によって違うので、この一足で万全と考えないでください。
すでにそれを持っているなら、雨の日用を足すのがいいと思います。ここで注意をひとつ。底のゴムに見えるものが、実はポリウレタンのことがあります。ポリウレタンは加水分解という劣化を起こす素材で、あとの章に出てきます。雨用として買うなら、素材の表記まで見てください。
そしてサイズです。同じ26センチでも、ブランドごとに木型が違います。1足目と同じ数字で買って合わなかった、はよくあります。通販で買うなら足を測ってから、返品の条件も先に読んでください。この話は別の記事に詳しく書きました。
最後に、マドラスの案内から。「靴を購入したら使い始める前にひととおりお手入れされることをおすすめいたします。クリームにより適度な油分を皮革に与えることで柔軟性が上がり傷みにくくなります」。おろす前に一度、手入れをしてください。
増えるもの①:シューキーパー
ここから、この記事でいちばん言いたいことに入ります。足数を増やすと、増えるのは靴だけではありません。
マドラスの案内は「保管時は必ずシュートゥリーを入れましょう」と書いています。「必ず」です。
ここからは編集部の計算です。マドラスは組数について何も書いていませんが、2足を交互に履くなら、休んでいる靴は常に1足。つまり最低1組あれば回ります。ただし履き替えのたびに入れ替える手間が出るので、足数と同じだけ用意しておくほうが楽だとは思います。
選ぶときの注意をひとつ。サイズの合わないものを押し込むと、逆に形を崩します。「入っていればいい」という道具ではありません。手入れをする本命の一足には調整できるネジ式、出番の少ない靴には手頃なバネ式、という分け方が現実的です。選び方は別の記事に書きました。
増えるもの②:乾燥剤と、扉を開ける習慣
ここで、よくある誤解をひとつ正しておきます。足数が増えても、持ち込まれる汗の量は増えません。1日に履くのは1足だからです。同じ量の汗が、複数の靴に分散する。それが交互に履くことの効き目そのものです。
では何が増えるのか。詰め込みによって、風が通らなくなることです。同じ下駄箱に靴が増えれば、隙間が減ります。
マドラスの案内はここを突いています。「湿気のある場所で保管しているとカビが生える危険性がありますので、風通しのよい日陰で湿気の少ない場所で保管しましょう。玄関の靴箱は風通しがよくないことがあるので、乾燥剤を置くことをおすすめいたします。また、時々換気をすることもおすすめいたします」。
そしてもうひとつ、見逃せない一文があります。「ポリウレタン底の経年劣化による加水分解も換気により湿気を少なくすることで発生が遅くなります」。さきほど雨用の靴で触れた素材の劣化が、換気で遅くなる、と書かれています。
乾燥剤は買えば済みますが、換気は習慣なので、買っても解決しません。ここが足数を増やすことの本当のコストだと考えています。
増えるもの③:置き場所。そして、増えないもの
3つめが場所です。2社が揃って書いているのは「風通しのよい」場所でした。アシックスは「出来るだけ通気が良く、高温多湿を避けたところで」、マドラスは「風通しのよい日陰で湿気の少ない場所で」。
編集部の見方ですが、足数を増やすと、たいてい下駄箱に詰め込む方向に向かいます。詰め込めば風は通らない。解き方は2つで、置き場所を下駄箱の外に作るか、詰め込まないか。通気のあるラックを玄関に出しておけば、扉の中よりずっと条件がいいです。
そして、増えないものも書いておきます。手入れの道具は、何足あっても1セットで足ります。ブラシ、クリーナー、クリーム、防水スプレー。足数が2倍になっても、これらを2つ買う必要はありません。増えるのは手入れにかかる時間だけです。
つまり、2足目を買うときに一緒に要るのは、シューキーパーと置き場所。道具はすでに持っているものが使えます。ここは安心してください。
まとめ:1足から2足への一歩が、いちばん大きい
整理します。足数を数字で書いているのはスポーツシューズメーカーのアシックスで、「2足以上」と「3日に一度位は休ませる」。革靴メーカーのマドラスは足数には触れず、置いておく側の条件を書いています。
「3日に一度」の読み方は一つに決められません。「2足以上」も下限であって、2足で十分とは書かれていない。そこは正直なところです。
ただ、平日5日を2足で回すと、1足あたりの稼働は週2〜3日で、土日にまとまった休みが入ります。「毎日履かれると早く寿命がきます」という状態からは、これで抜け出せます。3足あれば余裕は増えますが、効果がいちばん大きいのは1足目から2足目のところです。
まず1つだけと言われたら、今日、帰ったら靴をすぐ靴箱に入れないこと。無料で、今日から、1足しかなくてもできます。そして2足目を買うときは、シューキーパーと置き場所まで一緒に考えてください。手入れの道具は増やさなくて大丈夫です。
靴にも休日をあげてください、というのはメーカーの言葉です。休ませるには、代わりに働く一足が要る。それだけの話だと思います。














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