雪国でなければ、雪や路面の凍結は年に数回です。そのために冬靴を買うのは大げさに感じる。そう思って、いつもの靴で出かける人は多いと思います。
でも東京消防庁のまとめを読むと、その数回で転んで救急搬送される人が出ています。時間帯は朝の通勤・通学の時間に多く、年齢はふだんの転倒なら65歳以上が中心なのに、積雪時は50代から増える。
この記事では、東京消防庁と、札幌で冬道の転倒防止に取り組むウインターライフ推進協議会の資料、靴ケアメーカーの解説から引用し、そこから先は編集部の見方として段落を分けて書きます。最後に出典をまとめました。
都市の雪の日に、何が起きているか
東京消防庁の「積雪や凍結路面に係る救急事故に注意しよう」によると、毎年12月から3月までの期間に、積雪や凍結路面で滑って転倒しけがをする事故が起きています。この期間の救急搬送は、過去5年間の合計で、東京消防庁管内で801人です(管内は東京都のうち稲城市と島しょ地区を除く地域。直近の冬の数値は速報値)。
毎年同じくらい、というわけではありません。積雪の多かった令和4年1月には救急搬送人員が急増し、降雪の有無によって大きく変化しているとされています。
- いつ:「降雪時、降雪後の数日間は路面凍結などの理由により「ころぶ事故」が発生し救急搬送されています」
- 何時に:午前7時、午前8時の時間帯で多くなっていて、「急いで歩きがちな通勤・通学の時間帯は、あらかじめ時間に余裕を持って行動をすることが必要です」
- 誰が:50歳から84歳までで多く搬送されていて、「通常の転倒による救急搬送は65歳以上の高齢者が多くなりますが、積雪時では50代から増加することが一つの特徴です」
- どの程度:3割以上が中等症以上(中等症=生命の危険はないが入院を要するもの)
事例も2つ載っています。通勤途上、歩道橋の上で凍結した路面に足を滑らせて転倒し、腰部を受傷(70代、中等症)。そして数日前に降った雪で滑って転倒し、腰部を受傷(30代、中等症)。
ここからは編集部の見方です。雪が降っている日だけでなく、降ったあとの数日間。そして急いでいる通勤の時間。50代で通勤している人は、まさに当事者だということです。
いつもの靴が向いていない理由
ウインターライフ推進協議会のサイト「転ばないコツおしえます」は、はっきり書いています。「雪みちにスニーカーや皮底の靴は適しません。また不安定なハイヒールで雪みちを歩くのは危険です」。
そのうえで、こう念を押しています。「あらゆる路面に対応できる、滑らない靴はありません」。
ここからは編集部の見方です。革底の革靴で通勤している人は、雪の朝には条件がいちばん悪い側にいます。ただ、そのために冬靴を買い足すかどうかは、雪の中を歩く日数で決めればいいと思います。
年に数回なら、いつもの靴に付ける滑り止め
同じサイトには、雪国で暮らしていない人に向けた案内があります。北海道に数日旅行する場合について、「自分の靴にそのまま装着できる、着脱可能な「靴用アタッチメント」をおすすめします」。理由は、自分の靴にそのまま装着して使える、不要になったらすぐ外せる、鞄の中に入れて持ち運べるの3つです。
ここからは編集部の見方です。これは旅行者向けの説明ですが、年に数回の雪に備える都市の人にも当てはまると思います。冬靴を1足増やすより、いつもの靴に付けるものを1つ用意しておくほうが、現実的な備えです。
形は2種類です。「つま先型」はつま先部分をおおうタイプで、主にかかと面が狭い婦人靴などに適している。「全面型」は足裏全体をおおうタイプで、靴底が広くて平らなスニーカーや紳士靴に適している。それぞれに、金属ピンが付いたものと付いていないものがあります。
選ぶときのポイントとして、同サイトは着脱が容易、収納が手軽、持ち運びが簡単、履き心地がよい(靴にきちんと固定され、歩いたときに違和感がない)、丈夫で長持ち(バンドや金具等が容易にとれたりしない)の5つを挙げています。
ここからは編集部の見方です。通勤で使うなら、駅やビルを何度も出入りするたびに付け外しすることになるので、ピンがあるかどうかより先に「すぐ着脱できるか」で選ぶのがいいと思います。サイズは靴の大きさで選ぶものが多いので、手持ちの靴に合う範囲かを確かめてください。そして届いたら一度、家の外で付けて歩いてみる。初めて付けるのが凍った朝の道の上、にならないように。
なお、登山用のチェーンスパイクやアイゼンのような本格的なものは、この記事で考えている街の通勤とは用途が違います。
金属ピン付きは、建物に入る前に必ず外す
ここがいちばん大事なところです。「金属ピン付きのものは、屋内で装着したまま歩くと逆に滑るので、屋内に入る前には必ず取り外す必要があります」。
滑りやすい場所の説明にも、同じ注意があります。タイル張りの地下街や店内の出入口では「靴の裏についた雪や水で非常に滑ることがある」。そして「ピンのついたタイプの冬靴や、ピンのついたアタッチメントは、このようなタイル張りのところでは、逆に滑りやすくなります。収納できるピンは収納し、アタッチメントは外した方が安全です」。「靴の裏の雪、氷をしっかり落としてから入ることが大切です」とも書かれています。
ピン付きの冬靴の底についても、「じゅうたん等の上を歩くと金具がひっかかってつまづいたり、地下街や建物内のタイル等の床では滑りやすい」とあります。
ここからは編集部の見方です。都市の通勤は、外の凍った道と、駅やビルのタイルの床を何度も行き来します。だから付ける場所と外す場所を、先に決めておくのがいいと思います。
- 建物の外に出てから付ける(マンションの共用部や玄関前のタイルをピン付きで歩かない)
- 乗る駅の入口で外す
- 降りた駅の出口で付け直す。同サイトも「駅や地下街から出てきたときには、それまでの快適な路面から、路面が急に滑りやすくなる」と書いています
- 会社のビルの入口で外す。帰りも同じ順番で
付け外しは、凍っていない場所で、手すりや壁につかまれるところで。凍った歩道や人混みで片足立ちになるのは、それ自体が危ないからです。外したものは濡れていますし、ピンが付いていることもあるので、水を通さない厚手の袋に入れて鞄にしまうと、仕事の書類を傷めません。
もうひとつ、編集部の見方として書いておきます。以前、高齢の方のつまずき予防の観点では、つま先の靴底の摩擦は効きすぎないほうがいいという資料を紹介しました。滑り止めを付けた足は、凍っていない乾いた路面では引っかかりやすくなる可能性があります。だから凍った区間だけで使い、乾いた道が続くところや室内では外す。付けっぱなしにしない、というのがこの記事の考え方です。
都市で気をつける場所
同サイトは札幌の事情として、滑りやすい場所を挙げています。都市の通勤路にもある場所を引きます。
- 横断歩道:車の熱で雪の表面が融けやすく、発進するタイヤの摩擦で道路が磨かれる。「横断歩道の白線部は、普通の舗装部分と違い水が染み込まないため、薄い氷膜ができやすく、予想以上に滑る場合があります。なるべく白線の上は歩かないことをオススメします」
- 地下鉄駅や地下街からの出入口付近:人通りが多く、出入口付近には段差があることも多い
- 車の出入りのある歩道:駐車場の入口やガソリンスタンドなど。雪がタイヤに踏まれて固くなりやすく、傾斜もある
- バスやタクシーの乗降場所
東京消防庁の事例にあった歩道橋も、渡るときは特に足元に気を配りたい場所です。
歩き方は、小さく、足の裏全体で
靴と同じくらい、歩き方も大事です。同サイトのポイントはこうです。
- 小さな歩幅で歩く:歩幅が大きいと重心移動が大きくなり、転倒しやすくなる
- 靴の裏全体をつけて歩く:重心を前におき、足の裏全体を路面につける気持ちで。ただし「完全に地面を擦りながら歩いているとつまづきの原因にもなるので、軽く足を浮かせて歩きましょう」
- 急がずに焦らずに:「冬は夏より移動に時間がかかることは仕方がないと思って「余裕をもって」行動し」
- 歩きはじめと、歩く速さを変えるときに注意:横断歩道などで止まっている状態から歩き始めるときなど
転びやすい人として、急いでいる人、お酒を飲んでいる人、携帯電話に夢中になるなど何かに気をとられている人、両手がふさがっている人、ポケットに手を入れて歩く人が挙がっています。両手については「路面の滑りやすい日はなるべく両手をフリーにして」。帰りの一杯のあとと、スマホを見ながらの駅までの道も、雪の日は気をつけたいところです。
東京消防庁自身も、朝7時台・8時台の多さについて「急いで歩きがちな通勤・通学の時間帯は、あらかじめ時間に余裕を持って行動をすることが必要です」と書いています。ここからは編集部の見方ですが、雪の予報が出た日は、目覚ましをいつもより早めに。どれだけ早めるかは通勤路しだいですが、靴より先にできる対策です。
雪の中を毎日歩くなら、冬靴
同サイトは、次の条件をすべて備えた靴を「冬靴」としています。滑らない(防滑性)、濡れない(撥水性・防水性)、暖かい(保温性)。そして滑りにくい靴底の特徴として、4つを挙げています。
- ピン・金具付きの底:固い氷をひっかき突き刺す(屋内の注意は前の章のとおり)
- 深い溝のある底:グリップ力が強い。ただし「トレッキングシューズのような靴底が固くて単に溝が深い靴底は、つるつる路面では滑りやすいので、溝の深さだけではなく靴底のやわらかさも重要です」。「溝に雪が詰まると滑りやすくなる」とも
- 軟らかいゴム底:「路面に対する接着力が強いため滑りにくくなっています」
- 滑り止め材入りゴム底:「ヤスリのように路面の表面をひっかくので滑りにくくなっています」
ここからは編集部の見方です。意外なのは「溝が深いだけでは足りない」という点だと思います。山用の靴なら雪に強そうに見えますが、底が固ければ、氷のような路面では滑りやすい。溝とやわらかさの両方を見る必要があります。底の素材については「ゴム底」と「合成底」の違いは、樹脂が入っているかどうか。靴底の素材で決まる得意と不得意にまとめました。
冬靴を持つ意味がはっきりあるのは、雪が残る期間に、毎日のように外を歩く場合だと考えています。選ぶときは、同サイトの言うとおり「自分がよく歩く路面状況についてお店の人に詳しく話し、アドバイスを受けて」ください。通勤に履くなら、見た目はビジネス向けで底が冬仕様のものもあります。
冬靴のブランドごとの違いは南極観測隊とシロクマから、日本の雪道用ソールは生まれた。凍結路で滑りにくい冬靴4足で書きました。また同サイトによれば、靴底は使用するごとに劣化、消耗するので、去年の冬靴も底を確かめてから使ってください。
雪で濡れた革靴は、乾かしてから白い粉の手当て
最後に、雪の日をいつもの革靴で過ごした人へ。濡れた靴をその夜どう乾かすかは防水スプレーを玄関でかけてはいけません。かけ方の数字と、濡れた日の順番にまとめています。
乾いたあとに白い粉が浮くことがあります。靴ケアメーカーのコロンブスは、これを「塩ふき」と呼び、原因をこう説明しています。「塩ふきの原因は皮革の中に含まれている塩分や脂分です。製革行程で残った塩分や発汗によって蓄積された塩分、または保革成分として使用された油脂が雨水によって溶け出すのが原因です」。
対処は、靴にあったクリーナーを布に取り、白い粉の部分を拭き取る、革のシボに残ったものはブラシで取り除く、同色の靴クリームを薄く塗り、表面が乾いたら乾いた布で軽く磨く、仕上げに防水スプレーをし、充分に乾燥させてから布で軽く磨く、という順番です。スプレーについては「必ず屋外で使用してください」とあります。
まとめ:雪の予報が出た夜にやること
整理します。東京消防庁管内では、12月から3月の積雪や凍結路面による転倒などで、過去5年の合計801人が救急搬送されています。多いのは降雪時と降雪後の数日間、時間帯は午前7時・8時、そして積雪時は50代から増えるのが特徴です。
札幌の協議会はスニーカーや皮底の靴は雪みちに適さないとし、あらゆる路面に対応できる滑らない靴はないとしています。雪国に数日行く人には着脱式のアタッチメントをすすめていて、金属ピン付きは屋内に入る前に必ず外す。年に数回の都市の雪にも、この考え方が使えると思います。
雪の予報が出た夜にやることは3つです。滑り止めと、外したものを入れる袋を鞄に入れる。目覚ましを早める。両手が空く鞄を玄関に出しておく。翌朝は、建物の外で付けて、駅で外して、降りた駅で付け直す。白線の上を避けて、小さな歩幅で歩いてください。
出典
- 東京消防庁「積雪や凍結路面に係る救急事故に注意しよう」(2025年12月17日更新)
- ウインターライフ推進協議会「転ばないコツおしえます」:滑りやすい場所を知る/転びにくい冬みちの歩き方/転びやすい人はこんな人/冬みち歩きの靴選び/転ばないための便利グッズ
- コロンブス「塩ふきの対処法」
※各資料は2026年10月2日に確認しました。














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