厨房の床が濡れている。倉庫の通路で段差につまずきそうになった。毎日のことなので慣れてしまっているけれど、靴は何年も同じものを履いている。そんな職場は少なくないと思います。
厚生労働省の「令和6年の労働災害発生状況」によると、休業4日以上の死傷者を事故の型別に見ると「転倒」が36,378人で、いちばん多い型でした(新型コロナウイルス感染症への罹患によるものを除く数字)。転倒による平均休業見込日数は47.5日です。なお、この統計に通勤中の災害は含まれていません。
この記事では、厚生労働省と労働災害防止団体が進める「STOP!転倒災害プロジェクト」のリーフレットと、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」から引用し、そこから先は編集部の見方として段落を分けて書きます。リーフレットには日本安全靴工業会・日本プロテクティブスニーカー協会・厚生労働省の名前が入っていて、靴メーカーの問い合わせ先も載っています。業界団体の名前が入った資料として読んでください。最後に出典をまとめました。
リーフレットが挙げる6つの見どころ
「転倒予防のために適切な「靴」を選びましょう」というリーフレットは、次の6つを挙げています。
- サイズ:甲部の締まり、つま先の余裕、前後左右のずれなし、踵の当たりなし。「足に合った靴は疲労の軽減、事故の防止につながります」
- 屈曲性:親指から小指の付け根を適度に曲げられるか。「靴の屈曲性が悪いと、疲労の蓄積、擦り足になりやすく、つまずきの原因となります」
- 重量バランス:靴の重量がつま先部に偏っていると、歩行時につま先部が上がりにくく、つまずきやすくなる
- つま先部の高さ:つま先から床面まで一定の高さがあるか。低いと、ちょっとした段差につまずきやすくなる
- 靴底の減り具合:「靴底の減りが大きい靴は、滑りやすくなります」
- 耐滑性の有無:靴の滑りにくさを確認しているか
職場のあんぜんサイトの「転倒防止に有効な安全靴」も、屈曲性、重量、重量バランス、つま先部の高さ、靴底と床の耐滑性のバランス、の5点を挙げています。安全靴の重量については、重く感じる重量には個人差があるとしたうえで「短靴では900g/足以下のものをお勧めします」としています。
安全靴とプロスニーカーなら、表示で確かめられる
リーフレットによると、耐滑性のある靴は次の箇所で確かめられます。
- 安全靴:個装箱のJISマーク表示の近くに「F1」または「F2」の表示があるか
- プロスニーカー:靴のべろ裏面の表示に、耐滑性のピクト表示があるか
職場のあんぜんサイトのページ(掲載時期は書かれていません)は、JIS T 8101(安全靴)では「耐滑性が優れる靴」とは、動摩擦係数が0.2以上の物と規定されている、と説明しています。「F」はfriction(摩擦)の頭文字だそうです。同じページの表では、耐滑性が優れる靴が0.2以上、一般のプロテクティブスニーカーが0.05〜0.15程度、市販の紳士靴が0.01〜0.1程度です。
ここからは編集部の見方です。F1とF2の違いは、今回読んだ資料には書かれていませんでした。JISの本文は有料で、編集部は確かめられていません。どちらが職場に合うかは、販売店やメーカーに聞いてください。JISとJSAAの規格の違いは安全靴の記事にまとめています。
滑りにくければいい、ではない
職場のあんぜんサイトには、こういう注意があります。「滑りにくい床に滑りにくい靴底では、摩擦が強くなりすぎて歩行時につまずく場合があります」。靴底の耐滑性は、職場の床の滑り易さの程度に応じたものとする必要がある、としています。ページの冒頭でも「作業現場によって有効な安全靴は異なりますので、メーカーや販売店とよく相談しましょう」。
リーフレットの2ページ目「先芯がいらない作業環境で使用する耐滑靴の探し方」は、先芯を履く必要がない作業環境でも、耐滑靴を着用しなければならないことがある、と書いています。そのうえで、先芯入りの安全靴やプロスニーカーなら表示で耐滑性を確かめられるが、「先芯入りでない靴は表示で耐滑性を確認することができません」。その場合は下に挙げたメーカーに相談するように、としています。載っているのは、弘進ゴム、シモン、日進ゴム、ノサックス、丸五、ミズノ、ミドリ安全の7社です。
相談するときに職場の作業環境を説明できるよう、次の項目が挙がっています。
- 作業中や作業後に水を取り扱うことがあるか(水を扱うなら、靴の表面素材は人工皮革製・ゴム製が最適)
- 作業中に重量物を取り扱うことがあるか(扱うなら安全靴を)
- 滑りが発生する場合の状況(例:物につまづいた→運搬と通路改善、濡れた床で滑った→水・油用耐滑靴を検討、凍結路面で滑った→氷用耐滑靴を検討)
- 床の材質(塗り床、タイル、カーペット等。床の材質で適合する靴底が変わる)
ここからは編集部の見方です。まず職場に、先芯入りの靴が必要かを確かめてください。重い寸胴や箱を運ぶなら、リーフレットのとおり安全靴の側です。先芯がいらない職場で「滑りにくい」とだけ書かれた靴を選ぶときは、表示では確かめられないので、電話で「水と油を毎日扱う」「濡れたタイルで滑りかけた」「床はタイル」のように伝えて聞くのが確実だと思います。下の商品枠は、表示で確かめられる安全靴とプロスニーカーの検索です。
安全靴の滑りにくさには寿命がある
職場のあんぜんサイトは、安全靴の耐滑性能には寿命があり、靴底の凹凸が完全に磨滅してしまうと耐滑性が急激に低下する、としています。「靴底の凹凸が残っているうちに交換することをお勧めします」。
安全靴に限らず、リーフレットも「靴底の減りが大きい靴は、滑りやすくなります」と書いています。秋田労働局のページに厚生労働省版の資料として載っているチェックリストにも、職場の確認項目として「靴は、すべりにくくちょうど良いサイズのものを選んでいますか」が入っています。
ここからは編集部の見方です。支給された靴でも、自分で買った靴でも、靴底の凹凸は自分の目で見られます。月に一度、昼休みに靴の裏を見る。それだけでも、替え時を逃しにくくなると思います。
まとめ:表示を見て、床を伝えて、底を見る
- 令和6年、休業4日以上の死傷者で最も多い事故の型は転倒で36,378人(新型コロナ罹患を除く)
- リーフレットの見どころは、サイズ、屈曲性、重量バランス、つま先部の高さ、靴底の減り具合、耐滑性の6つ
- 耐滑性は、安全靴なら個装箱のJISマーク近くの「F1」「F2」、プロスニーカーならべろ裏のピクト表示で確かめる。先芯入りでない靴は表示で確かめられないので、リーフレットに載っているメーカーなどに相談する
- 滑りにくい床に滑りにくい靴底では、つまずく場合がある。床の材質や水・油の有無を伝えてメーカーや販売店に相談する
- 安全靴の耐滑性能には寿命があり、靴底の凹凸が残っているうちに交換する(あんぜんサイト)。靴底の減りが大きい靴は滑りやすくなる(リーフレット)
明日の仕事の前に、靴の箱かべろ裏の表示、職場の床、靴底の凹凸。この3つを一度見てみてください。
出典
- 厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表」(令和7年5月30日。8月22日に一部訂正のうえ再公表、転倒の数字は訂正後も同じ)
- STOP!転倒災害プロジェクト リーフレット「転倒予防のために適切な「靴」を選びましょう」(日本安全靴工業会・日本プロテクティブスニーカー協会・厚生労働省の表記あり。秋田労働局サイト掲載)
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「転倒防止に有効な安全靴」(掲載時期の記載なし)
- 「転倒の危険をチェックしてみましょう!」(秋田労働局サイトに厚生労働省版の資料として掲載)
※各資料は2026年11月3日に確認しました。














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