ゴム長靴というと、実用一辺倒の道具に見えます。ところが北欧では事情が違って、雨と雪と泥が生活の前提にある土地だからこそ、まともなゴム長靴を作る会社が国ごとに育ちました。
なかでも変わった来歴を持つのがフィンランドの一社です。1898年にヘルシンキで生まれたゴム工場が、タイヤと長靴を作りながら大きくなり、やがて「Nokia」という社名を名乗ります。そう、あの携帯電話のNokiaです。今回はそのブランドを軸に、北欧4カ国のラバーブーツメーカーを紹介します。
フィンランド1898年。Nokiaの前身が作っていたゴム長靴の直系:Nokian Footwear Hai
1898年、エドゥアルド・ポローンがヘルシンキに「フィンランドゴム工場」を設立しました。この会社はやがて生産の中心をノキアという街に移し、その地名をブランド名として使い始めます。1967年にゴム会社・ケーブル会社・製紙会社が合併して Nokia Corporation が誕生し、携帯電話へ進むのはそのあとの話です。つまり順番としては、ゴム長靴のほうが先でした。
1990年に靴部門が Nokian Footwear として独立し、いまもフィンランド発のブランドとして続いています。Haiは天然ゴムを使った軽量モデルで、持ち上げると「ゴム長靴ってこんなに軽かったか」と拍子抜けするほどです。片手でぶら下げたまま玄関まで歩ける重さ、と言えば伝わるでしょうか。内側は起毛のライナーで、氷点下の朝でも冷たさが直接来ません。あの携帯電話メーカーと同じ源流から来た靴、という一点だけで、この長靴は他のどれとも違う立ち位置にいます。
ノルウェー1920年。雪と氷の国が作った、滑らないための長靴:Viking Footwear
Viking Footwear は1920年、ノルウェーで創業したゴム靴メーカーです。ノルウェーは冬が長く、道が凍り、山と海に挟まれた土地で人が働いてきました。農業でも漁業でも、足元が濡れて凍ることが即座に命に関わる。そういう環境で求められたのは、防水よりもまず「滑らないこと」でした。
この会社のラバーブーツは、ソールのパターンが深く、間隔が広く取られています。泥や雪が詰まっても自分で吐き出す設計です。歩くと接地の感触が硬めで、ふわりとした履き心地ではありません。ただ濡れた斜面や雪の残る道では、その硬さが安心に変わります。子ども用のラインナップが充実しているのも、生活道具としてこの靴が根づいている証拠です。
デンマーク1993年。海辺の町から生まれた、見た目から作ったゴム長靴:Ilse Jacobsen RUB
Ilse Jacobsen(イルセ ヤコブセン)は1993年、デンマークの海辺の町ホーンベックで、同名のデザイナーが立ち上げたブランドです。北欧のゴム長靴が農業と漁業から発展したのに対し、こちらは「雨の日に履きたくなる靴」という発想から入っています。ヨーロッパのレインブーツが機能一辺倒だった時期に、あえて見た目から作った側です。
RUBはその代表シリーズで、履き口の細さとくるぶしの形が特徴です。長靴にありがちな寸胴の輪郭がなく、パンツの裾を入れても脚が太く見えにくい。マットな質感で、ゴム特有のてかりが出ません。天気の悪い日に「今日は長靴だから仕方ない」と諦めなくてよくなる、という点で、他の3足とは目的がはっきり違います。
スウェーデン1913年。西海岸の漁師のための防水着から始まった会社:Didriksons
Didriksons(ディドリクソンズ)は1913年、スウェーデン西海岸の漁村グルンズンドで創業しました。始まりは靴ではなく、漁師のための油引きの防水着です。北海の風と波を毎日受ける人たちに向けて服を作ってきた会社が、同じ考え方で足元まで手を伸ばしたのが現在のラバーブーツにあたります。
この会社の長靴は、丈と防寒のバランスがよく考えられています。膝下まで覆いながら重すぎず、裏地が入っていても中で足が汗ばみにくい。長時間履いていても「早く脱ぎたい」と思わせないのは、道具ではなく服として設計されているからでしょう。100年以上、悪天候のなかで働く人の服を作り続けてきた会社が作る長靴です。
まとめ:北欧4カ国、それぞれの長靴の理由
4足を並べると、目的がきれいに分かれます。氷点下でも冷えないフィンランド(Nokian)、凍った斜面で滑らないノルウェー(Viking)、雨の日でも見た目を諦めないデンマーク(Ilse Jacobsen)、悪天候の中で長時間働くためのスウェーデン(Didriksons)。同じゴム長靴でも、その国で何が困りごとだったかによって、力の入れどころが違っています。
選ぶ順番はこう考えると分かりやすいと思います。通勤や街歩きが中心ならIlse Jacobsen。キャンプや畑仕事、雪の残る道を歩くならNokian Footwear。子どもと一緒に雪道を歩く機会が多いならVikingが手堅く、仕事で一日じゅう屋外にいるならDidriksonsが向いています。なかでもNokianは、履いた理由を説明しやすい。「これ、フィンランドの会社が作ってるんだけど、もとをたどるとNokiaの携帯と同じ会社なんだよ」と言えば、たいていの人は一度聞き返します。雨の日の足元に、そういう1足があってもいいと思います。














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