厚手の靴下を履いて、その上にもう一枚重ねて、それでも夕方には足の指が冷たい。冬のあいだずっとそうだ、という人は少なくないと思います。
足が冷えやすいのには理由があります。心臓からいちばん遠く、熱をつくる筋肉も、断熱になる脂肪も少ない。そのうえ体は、寒さを感じると体の中心の温度を守ろうとして、手足の血管を細くします。末梢への血流をあえて絞るわけです。だから寒い日の足先は、外から冷やされていると同時に、内側から届く熱も減っている。靴下を足すだけでは足りない理由がここにあります。
そのうえで、冷えの入口は大きく3つに分かれます。ひとつは地面です。冬のアスファルトやタイルは、そこに立っているだけで足裏から熱を吸い取ります。ふたつめは血流。締めつけて、ただでさえ細くなっている血管をさらに圧迫してしまう経路です。そして3つめが汗。蒸れて汗をかき、その汗が冷えて足を冷やす。動いたあとにかえって冷えるのはこれです。屋外ではここに風が加わります。同じ気温でも風のある日に足先が痛くなるのは、風が熱を持っていくからです。
ここで問題になるのが、靴下の重ね履きです。空気の層ができるので考え方としては正しい。ただし靴のサイズは変わりません。同じ靴に靴下を足せば、中は窮屈になります。締めつけられれば血のめぐりは落ちますし、素材によっては汗も抜けなくなる。つまり2つめと3つめの入口を、自分で広げてしまうことがある。だから靴下より先に、靴の側を見直したほうが早いんです。
オフィスで足先が冷える人へ。温かいのに蒸れないウールフェルト:glerups
冷えの相談でいちばん多いのが、屋内です。オフィスの床は冬でもタイルやカーペットで、暖房は上のほうを暖める。足元だけが取り残されます。
glerups(グレーラップ)はデンマークのブランドで、名前は創業者のナニー・グレーラップから来ています。夫のオーヴェとともに1993年に立ち上げました。本拠は北ユトランドの農場。使うのは自分たちの羊に由来するデンマーク産のゴットランドウールと、ニュージーランド産のウールをブレンドした100パーセントのピュアウールです。設計はデンマーク、生産は2005年に自社で建てたルーマニアの工場が担っています。
この極厚のフェルトが、冷えの入口に同時に効きます。厚い繊維の層が床からの冷たさを遮り、ウールなので湿気を抱えたまま保温する。温かいのに蒸れにくく、匂いもつきにくい。そして何より、締めつけません。ゆるく足を包むだけなので血流を邪魔しない。
形は、かかとまで覆うシューズ型、スリッポン型、足首まで上がるブーツ型の3系統。ソールはレザーと天然ラバーの2種類があり、ラバーのほうは外も歩けます。ここが選び方の分かれ目です。デスクの下でだけ履くならレザー、玄関から出る可能性があるならラバー。色はグレーやチャコール、赤や青など落ち着いたトーンが揃っていて、室内履きにありがちな野暮ったさがありません。オフィスでパンプスから履き替える用として置いておくと、冬の午後がまったく変わります。
動いたあとに冷える人へ。湿気を吸い出すシープスキン:EMU Australia
駅まで急いで歩いて、着いたころには足が汗ばんでいる。そのあと電車で座っているうちに、じわじわ冷えてくる。これが汗冷えです。断熱だけを厚くしても解決しません。汗が抜ける道が要ります。
EMU Australiaのもとになったのは、1948年にゴードン・ジャクソンが始めた「ジャクソンズ・タナリー」という羊革のなめし工場です。地元の靴メーカーに革を供給する仕事から始まり、シープスキンのブーツが冷たい海から上がるサーファーたちのあいだで広まったのは1970年代のこと。ブランドとしていまの名前になったのは1994年です。濡れた体と冷えた足、という現場から育ったブランドだと考えると分かりやすい。
シープスキンとメリノウールは、断熱しながら湿気を外へ運びます。中が汗でびしょびしょにならないので、止まったときに冷えにくい。天然繊維なので匂いにも強い。冬の朝と夕方で体温の上下が大きい人、通勤で歩く距離がある人には、この方向が合います。
地面からの冷えを断ちたい人へ。イヌイット語で「足を覆うもの」:Kamik
Kamik(カミック)の話は1898年、カナダ・ケベック州のコントルクールという村で操業を始めた靴工場にさかのぼります。1932年にウィリアム・クックがこの工場を買い取り、のちにジェンフットという会社になりました。カミックというブランド名が生まれたのは1970年代です。名前はイヌイットの言葉で「足を覆うもの」。名づけの時点で用途がはっきりしています。
強いのはインナーです。冬靴の中に入れる断熱材をカナダ国内で自社製造していて、暖かさを保ちながら湿気を逃がすように作られています。断熱と除湿を一つの部材でやろうとしているわけです。上位のモデルになると零下40度に対応します。
日本の街で零下40度は要りませんが、この設計思想は効きます。地面に熱を奪われるのを、靴底と中敷きの層で止める。バス停で待つ時間が長い人、屋外で立ち止まる人には投資する価値があります。インナーが取り出せるモデルなら帰宅後に別々に乾かせるので、翌朝の冷たさが違います。
雪国で毎日履く人へ。小樽で90年、手作業で焼く冬靴:第一ゴム
第一ゴムは1935年、北海道の小樽で創業しました。いまも小樽の自社工場で、80年以上変わらない手作業の製法で作り続けています。ゴムを伸ばし、型を抜き、貼り合わせて、窯で焼く。
本州のブランドと違うのは、前提にしている冬です。毎日が雪で、路面が凍る。そういう場所で暮らす人が毎日履く靴を作っている。滑り止めのピンスパイクが仕込まれたモデルもあります。
冷え対策としては、丈のある形そのものが効きます。足首から上まで覆うので隙間から冷気が入らず、中に厚い靴下を履く余裕が最初からある。「靴下を重ねると窮屈になる」という問題が起きにくい作りです。
そして見た目です。ゴム長靴と聞いて身構える人にこそ知ってほしいのが「シェブリー」というシリーズで、ラバーの表面をスエード調に仕上げてあります。並んでいる姿は普通のショートブーツで、言われなければゴムには見えません。それでいて中身は完全防水、底にはピンスパイクが入っている。幅も3Eでゆとりがあります。おしゃれを諦めずに雪道を歩ける、という意味では、この記事のなかでいちばん現実的な一足かもしれません。
まとめ:靴下を足す前に、入る余地があるかを見る
選び方の目安はこうです。屋内の足元ならglerups。動いたあとに冷えるならEMU Australia。屋外で立ち止まる時間が長いならKamik。雪国の日常なら第一ゴム。
最初の一足には、glerupsをおすすめします。冷えの時間がいちばん長いのは、実は外を歩いている時間ではなく、屋内でじっとしている時間だからです。デスクの下や家の床で足が冷え切っていると、外に出る前からすでに冷えている。そこを断つほうが、一日を通しての効果は大きいと思います。
そして靴下です。重ね履き自体は有効ですが、条件があります。まず、靴に余裕があること。いまの靴でぎゅうぎゅうなら、冬用にハーフサイズ上げるか、幅にゆとりのあるものを別に用意してください。次に素材。綿の靴下は汗を抱えたまま乾かないので、冬はむしろ不利です。1枚目にウールや五本指のものを持ってくると、指の間の汗が散って冷えにくくなります。断熱のインソールを一枚入れるのも、地面からの冷えには直接効きます。
最後にひとつ。冷えが片足だけに強く出る、指の色が白や紫に変わる、しびれや痛みを伴う。こうした場合は靴や靴下の問題ではないことがあります。血のめぐりそのものに原因があるなら循環器内科や血管外科、指先の色が変わるタイプなら膠原病やリウマチを診る科が窓口になります。我慢して冬を越そうとせず、一度相談してみてください。














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