アメリカのワークブーツを一足持っている人が、次に何を買うか。レッドウィングの875やアイリッシュセッター、ドクターマーチンの1460あたりから入ると、たいてい同じ壁に当たります。悪い靴ではない。ただ、街で見かける確率が高い。
そのすぐ外側で、2010年代に小さな工房が次々に生まれました。数人から数十人の規模で、グッドイヤーウェルト製法の頑丈なブーツを作る会社です。大手と違うのは、ラストが細めで、革の選び方が凝っていて、そのぶん一足ごとの顔がはっきりしていること。ワーク一辺倒ではなく、ジャケットにも合う顔つきのものが多いのも特徴です。
そしてもうひとつ面白いのが、この4社が「どこで、どれだけ、誰を通して売るか」にまったく違う答えを出していることです。値段の差も、だいたいそこから説明がつきます。
定番の次を探している人へ。市場になかったから作った:Oak Street Bootmakers
2010年8月31日、シカゴでジョージ・ヴラゴスが立ち上げました。宣伝は一切していません。それなのに、用意した靴は24時間で売り切れたと伝えられています。
なぜ始めたのかがはっきりしています。第一次世界大戦のころのトレンチブーツ、あの様式で、きちんとアメリカ国内で作られたものが市場になかった。だから自分で作った、という話です。いまも看板は「トレンチブーツ」で、製造はアメリカ国内。当初は外部の工場に頼んでいましたが、規模が育つにつれて自分たちで工場を持つようになりました。
背景に父親がいます。ジョン・ヴラゴスはギリシャのパグラティ生まれで、若いころに靴修理職人のもとで修業し、1960年代にアメリカへ渡ってイリノイ州で自分の修理店を開きました。ジョージはその店で育っています。靴の直し方を先に覚えた人が、作る側に回った。だからこのブランドの靴は、修理して履き続ける前提で組まれています。
レッドウィングと比べると、トレンチブーツは全体に細く、つま先も丸すぎません。同じワーク由来でも、こちらはスラックスに寄せられる顔つきです。
同じ作りで値段を抑えたい人へ。中国で作ると決めた3代目:Grant Stone
Grant Stoneは2016年、ワイアット・ギルモアが父のランディとともに始めました。この家族は3代にわたって靴の世界にいます。祖父はオールデンで60年働き、父ランディは中西部でオールデンの営業を15年以上。そのあと中国・厦門の靴工場のエージェントになりました。
ワイアット自身は、その厦門の工場で8年を過ごしています。グッドイヤーウェルトの作り方と、中国での仕事の仕方を現場で覚えた人です。だからこのブランドの靴は、いまも厦門で作られています。そしてそれを隠していません。公式サイトに「メイド・イン・チャイナが自分たちにとって何を意味するか」という文章をわざわざ載せているくらいです。
価格が抑えられている理由は、産地だけではありません。自社サイトからの直販が中心で、あいだに入る流通が少ないこと。そして4社のなかでは生産量が多いこと。この3つが重なっています。革は世界のタンナリーから選び、製法はグッドイヤーウェルト。手を抜いて安いわけではない、というのがこのブランドの立ち位置です。
定番はディーゼルというブーツで、レッドウィングより明らかに細身。ワークブーツの顔をしていながら、革靴の棚に置いても浮きません。ブランド名も面白くて、かつてオールデンにいた営業マンの名前から取っています。生涯ののしり言葉を口にせず、ジャケットとネクタイなしに客先へ行かなかった人だったそうです。
誰が作ったかがはっきりしている一足が欲しい人へ:Truman Boot
Truman Boot Co.は2014年、ヴィンス・ロマーノがオレゴン州ユージーンで始めた工房です。掲げているのは「革の状態から完成品まで、全工程をここユージーンで自分たちがやる」ということ。木型に革を吊り込む作業も手でやります。
正確に書いておくと、革そのものは米国内と、ヨーロッパの選ばれたタンナリーから仕入れています。英国のチャールズ・F・ステッドなどです。素材を世界から集めて、そこから先の工程を全部ユージーンでやる、という切り分けです。生産量はごく小さく、年に1000足に満たないとも言われます。大手が一日で作る量にも届きません。
結果として、在庫があるとは限りません。色や仕様を選べば待つことになります。急ぐ人には向きません。逆に、届くまでの時間も含めて楽しめる人、「誰がどこで作ったか」がはっきりしている一足が欲しい人には、この4つでいちばんまっすぐな答えです。見た目はいちばん武骨で、レッドウィングの延長線上にある顔つき。ソールも厚めなので、ワークブーツらしさを残したい人向けです。
作り手の顔が見える一足が欲しい人へ。祖父の住んでいた通りの名前:Parkhurst
Parkhurstは2018年10月、ニューヨーク州バッファローで始まりました。創業者のアンドリュー・スヴィスコは、その年の7月まで株式アナリストをしていた人です。金融の仕事を辞めて、ブーツを作り始めた。きっかけは単純で、アメリカ製のブーツに興味を持ったものの、どれも高すぎると感じたからでした。
ブランド名は、祖父が生涯を過ごした通りの名前から取っています。その祖父は鉄鋼労働者で、勤め先が生産を海外へ移すたびに職を失った人でした。
そして、ここから先が重い話です。スヴィスコが最初に組んだのは、ニューヨーク州西部にあった靴工場でした。1867年からあった会社が2018年に行き詰まり、その設備と職人を引き継いだ工房です。ところがコロナ禍で、アメリカ国内の資材メーカーと靴工場のほとんどが止まりました。そして、そのまま再開しなかった。2022年の後半、スヴィスコはスペインの工場とタンナリーと組むことを決めます。いまは主要な製造をスペインとポルトガルで行い、最終的な組み立てと仕上げをバッファローの自社の作業場でやっています。祖父の話を思えば皮肉ですが、皮肉というより、アメリカの製造業がどうなったかがそのまま出ている話です。
革はホーウィン、シーデル、C.F.ステッドといった名の通ったタンナリーのもの。作りに対する価格は、いまも4社のなかでは抑えられているほうです。ドレス寄りの顔つきが多く、レッドウィングより明らかに細い。ジャケットに合わせたい人にはここが合います。
まとめ:値段を決めているのは、産地だけではない
選び方の目安はこうです。定番の次を探しているならOak Street Bootmakers。同じ作りで価格を抑えたいならGrant Stone。誰が作ったかがはっきりした一足ならTruman Boot。ジャケットに合う細身ならParkhurst。
最初の一足には、Grant Stoneをおすすめします。グッドイヤーウェルトで、革も選ばれていて、そのうえで手が届く。しかも日本に正規の取扱店があります。滋賀のフナナカ洋装店が国内唯一の正規取扱で、オンラインでも買えます。「新しいアメリカのブーツ」に入る入口としては、いちばん現実的です。
ひとつ補足を。「安いのは中国で作っているから」という説明は、半分しか当たっていません。Parkhurstはスペインとポルトガルで作っていますが、南欧の人件費は中国とは違います。それでも価格が抑えられているのは、直販が中心だからです。逆にTrumanが高いのは、産地というより年に1000足規模という作り方そのものが理由です。値段を決めているのは、どこで作るかに加えて、どれだけ作るか、そして誰を通して売るか。この3つの合計だと考えたほうが実態に近い。
買い方も整理しておきます。Grant Stoneは前述のフナナカ洋装店、Oak Street Bootmakersは新潟のMAPSが正規に扱っていて、どちらも国内のオンラインで買えます。TrumanとParkhurstは、実質的に本国のサイトから直接買うことになります。個人輸入をする場合は、送料と関税に加えて、合わなかったときの返送費用まで計算に入れてください。革靴は関税の率が高く、思っていたより乗ります。
最後にサイズの話を。この種のブーツはブランドごとに木型が違い、同じUS表記でも実寸が変わります。スニーカーより小さめを選ぶことになる場合が多いのですが、何センチ下げるかは木型次第なので、必ず各社のサイズ案内を読んでください。そして修理。グッドイヤーウェルトならソールの張り替えは日本の修理店で受けられます。本国へ送らなくていいというのは、この製法の大きな利点です。ただし中古で古い個体を買う場合は、製法が変わっている時期のものもあるので、底の作りを確認してから手を出してください。














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