南極観測隊とシロクマから、日本の雪道用ソールは生まれた。凍結路で滑りにくい冬靴4足

冬の朝、駅までの道でひやりとした経験はないでしょうか。見た目は乾いているのに、踏んだ瞬間に足が横へ流れる。あれは雪ではなく氷です。

先に仕組みの話をします。氷が滑るのは、表面にごく薄い水の膜があるからです。かつては体重の圧力で溶けると説明されていましたが、いまは氷の表面そのものが常に少しだけ緩んだ状態にある、と考えられています。この膜が潤滑油の役をするので、氷はよく滑る。そして膜の厚さは温度で変わるため、同じ氷でも日によって滑りやすさが違います。

もうひとつの要因が靴底です。ゴムは温度が下がると硬くなり、硬くなると路面の細かい凹凸に追従できません。夏に効いていた靴底が、氷点下ではただの板になる。つまり凍結路では「氷の側の水の膜」と「靴の側のゴムの硬化」が同時に起きています。雪国向けの靴底は、低温でも柔らかさを保つゴムを使い、そこに硬い粒子を仕込んで氷に食い込ませます。この二段構えが基本です。

そしてこの考え方を日本で最初に形にした一足は、南極とシロクマから生まれています。

目次

通勤路の凍結が怖い人へ。南極とシロクマから生まれた防滑ソール:ムーンスター スペラン

1956年、第一次南極観測隊から、久留米のゴム会社へ特殊な防寒靴の製造依頼が入りました。当時の社名は日華ゴム。のちの月星ゴム、いまのムーンスターです。作られたのは、零下50度でも硬くならない天然ゴムの長靴に、当時の新素材だったインナーソックスを組み合わせたもの。保温性、柔軟性、防滑性、耐久性を同時に満たす必要があったわけです。この靴は日本隊だけでなく、外国の観測隊のあいだでも評判になったと記録されています。

ただし、防滑ソール「スペラン」が生まれるのはその29年後、1985年です。直接のきっかけは南極ではなく、氷の上でも滑らないシロクマの足裏の体毛でした。技術担当者はそこから、ガラス繊維を地面に対して垂直に立てて並べるという方法を考えます。粒子を混ぜるのではなく、向きをそろえて立てる。だから一本一本が氷に刺さる方向に働きます。最新の世代では、より細いガラス繊維を従来の約4倍の本数入れているそうです。

ここで注意がひとつ。スペランは技術の名前であって、商品名ではありません。ムーンスターの冬向けモデルでも、ソールがふつうのラバーのものが混ざっています。実際に人気のある防水ウィンターモデルにも、スペラン非搭載のものがありました。買うときは商品説明で「スペラン」の表記があるかを必ず確認してください。ここを見落とすと、防水の靴を買ったのに凍結路では滑る、ということが起きます。

雪が積もる地域で毎日履く人へ。インナーが外せる元祖:SOREL カリブー

SOREL(ソレル)
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SOREL(ソレル)は1962年、カナダ・オンタリオ州でラバーブーツを作っていたカウフマン社のブランドとして始まりました。革のアッパーにゴムの底、そして取り外せるフェルトのインナー。この組み合わせを世に出したのはソレルが最初とされていて、その形はいまもウィンターブーツの標準として残っています。代表作カリブーの使用限界温度は零下40度です。

実用面でいちばん効くのは、インナーが外せることです。一日雪の中を歩けば、外から濡れなくても中は汗で湿ります。濡れた中綿は保温しません。翌朝また同じ靴を履くと、前日より確実に冷える。インナーを抜いて別々に乾かせる靴は、二日目以降の暖かさが違います。雪が積もる地域に住んでいる人、冬に何日も雪国へ出張する人には、この一点だけで選ぶ価値があります。

雪より、みぞれと泥の日が多い人へ。農作業のために作られた完全防水:Bogs

雪国以外の冬でいちばん多いのは、実は積雪ではなくみぞれです。溶けかけた雪と水と泥が混ざった状態が一日中続く。ここで効くのがBogs(ボグス)です。

2002年、アメリカ・オレゴン州ポートランドで生まれました。創業者のビル・クームスは靴の業界に40年以上いた人で、地元の農業や園芸に携わる人たちが、天気の変わりやすいこの土地でもっと快適に働ける長靴を必要としている、というところから始めています。晴れの日も雨の日も雪の日も同じ一足で通せること。出発点が作業靴なので、考え方が実用一辺倒です。

アッパーはネオプレンを使った作りで、縫い目から水が入る余地がありません。脱ぎ履きもしやすく、雪かきや車の乗り降りが多い生活には合います。見た目もカジュアル寄りなので、通勤より休日や送り迎えの一足として考えるのが現実的です。

氷点下二桁の屋外で長時間過ごす人へ。極地用として作られた一足:Baffin

Baffin(バフィン)は1979年、カナダ・オンタリオ州ストーニークリークでハブナー家が立ち上げた防寒ブーツのメーカーです。代表作インパクトの対応温度は、公式表記で零下45度から零下60度。北極・南極といった極地での使用を前提に作られています。

中身は驚くほど多層です。吸湿発熱する層、形に沿うフォーム、中空繊維の断熱層、そしてアルミを蒸着した反射層。体から出た熱を跳ね返して戻す作りになっています。1956年に日本のメーカーが南極で挑んだ「保温と柔軟と防滑を同時に」という課題に、いまも正面から取り組んでいるブランドだと言えます。

正直に書くと、日本の街で履くには完全に過剰です。1足で3キロを超えますし、暖かすぎて汗をかきます。真冬の釣りや長時間の除雪、氷点下二桁が続く地域での屋外作業。そういう使い方をする人のための靴です。

まとめ:冬靴は「どこで何時間いるか」で決まる

選び方の目安はこうです。通勤路の凍結が怖いならムーンスター スペラン。雪が積もる地域で毎日履くならSOREL カリブー。みぞれと泥の日が多いならBogs。氷点下二桁の屋外で長時間過ごすならBaffin。

最初の一足には、ムーンスター スペラン搭載のモデルをおすすめします。日本の冬でいちばん危ないのは深い雪ではなく、街なかの凍結路だからです。見た目が街用なので、雪の予報がない日も履ける。冬靴を「降った日だけ履く靴」にすると、肝心の凍った朝に玄関で選び間違えます。

ただし、はっきり書いておきます。どんな防滑ソールでも、氷の上で絶対に滑らないということはありません。滑りにくくなるだけです。靴を替えたことで油断して転ぶのが、いちばん避けたい結末です。とくにマンホールの蓋、横断歩道の白線、点字ブロック、店の入口の濡れたタイル。ここは靴の種類にかかわらず滑ります。ソールも摩耗すると、氷に食い込む部分ごと減っていきます。

最後に、靴と同じくらい効くことを。試着は冬に履く厚手の靴下でしてください。歩き方は、歩幅を小さくして足裏全体で置く。かかとから着くと氷の上では足が前に流れます。荷物は手提げよりリュックにして、両手を空けておく。手をポケットに入れて歩かない。転んだときに受け身が取れず、冬の転倒は骨折につながりやすいからです。そして本当に凍った朝には、靴に後付けする携帯型のスパイクという手もあります。折りたたんで鞄に入れておけば、危ない道の手前で装着できる。いちばん怖いのは滑ること自体ではなく、受け身が取れないまま倒れることなんです。

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日常の靴選びから仕事に合わせた靴選びなど、さまざまな靴に関する情報をお届けしています。あなたの足元を彩る一足を見つけるお手伝いができれば幸いです。お気に入りの靴を見つけて、毎日の生活を足元から豊かにしてください。

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