帰宅してブーツを脱いだとき、あの感じ。冬なのに、と思いながら足の裏が湿っている。夏の蒸れはよく語られますが、実は秋冬のほうが条件は悪いんです。
理由は3つ重なっています。まず、秋冬に履く靴は密閉度が高い。ブーツも革靴も、足をぐるりと革で覆います。次に、暖房です。屋外は寒くても、オフィスや電車の中は暖かい。そして厚い靴下。汗は出るのに、逃げ道がない。足の裏はもともと汗腺の密度が高い場所なので、出る量も少なくありません。
においについても、先に整理しておきます。汗そのものはほとんど無臭です。臭うのは、皮膚にいる菌が汗や剥がれた角質を分解するから。つまり対策は「菌を殺す」より「乾かす」が先です。湿ったまま置いておく時間を減らせば、においは確実に減ります。
そのうえで、靴の側でできることは4つに分かれます。膜で外へ逃がすか、素材に吸わせるか、そもそも層をなくして溜めないか、日中に脱げる形にするか。今回はそれぞれの答えを1足ずつ紹介します。
通勤の革靴で蒸れる人へ。膜で湿気だけ逃がす:ハイドロテック ウォーキング
いちばん現実的な解き方から。水は入れずに、湿気だけを外へ逃がすという方向です。
ハイドロテックは、日本の靴小売大手チヨダが展開するブランドです。ウルトラライト、ブルーコレクション、スタイリッシュウォークなど、機能ごとにシリーズが分かれています。
蒸れで選ぶなら「ハイドロテック ウォーキング」です。「ハイドロテックス」という防水と透湿を両立させる機能を備えたシリーズで、品番でいうとHYDR6301やHYDR6302がこれにあたります。膜が水の粒は通さず、汗の水蒸気だけを外へ抜く。雨の日に濡れないことと、中が蒸れないことを一つの靴でやろうとしたモデルです。
4足のなかでは、いちばん手に取りやすい価格帯です。国内の靴屋で試着してから買えるのも大きい。ひとつ現実的な話をすると、透湿の膜は万能ではありません。汗の量が膜の処理能力を超えれば中は湿ります。あくまで「何もしない靴よりかなりまし」という位置づけで考えてください。
一日じゅう履きっぱなしの人へ。革とコルクで吸う:Astorflex
出口を作れないなら、中で受け止めるという手があります。素材そのものに吸わせる方向です。
Astorflex(アストールフレックス)はイタリア北部、マントヴァ県のカステル・ダーリオにある靴メーカーです。創業は1820年。トラヴェンツォーリ家が7代にわたって続けている、200年を超える家族経営の会社です。
この会社の靴が蒸れに効くのは、足に触れる部分の素材です。ライニングにベジタブルタンニンでなめした革を使っています。この革は吸湿性が高く、汗を抱えてくれる。そして中敷きはコルクです。合成素材で固めた靴と違って、足から出た水分の行き場が素材の中にある。定番のグリーンフレックスというチャッカブーツあたりが分かりやすい入口です。
注意点も同じところから来ます。吸うということは、抱えるということです。履いた日はしっかり乾かさないと、翌日はその分から始まります。そのかわり、履き込むほど足の形に沿ってくる。ファッションではなく歩くための道具として作る、というのがこの会社の姿勢で、見た目も地味です。そこを気に入れるかどうかで分かれます。
ブーツの中が蒸れる人へ。裏地をなくして溜めない:Russell Moccasin
三つめは、構造そのものを変える方向です。革靴の内側には普通、ライニングという裏地が貼ってあります。履き心地と耐久性のためですが、そのぶん層が増える。層が増えれば、湿気の抜け道は減ります。
Russell Moccasin(ラッセルモカシン)は1898年、アメリカ・ウィスコンシン州ベルリンで始まりました。フォックス川のほとりの工場で、いまも裁断から吊り込み、縫製までを自社でやっています。もともとはウィスコンシンの林業で働く人のための靴でした。
特徴が、裏地を貼らない「アンラインド」の作りです。革一枚が直接足に触れる。層がないので湿気がこもりにくく、しかも革が足の形に沿って変形していきます。中にはPoronという素材のスリップソールが入っていて、クッションと湿気の処理を担います。厚いブーツを長時間履く人にとっては、この構造の差がいちばん体感に出るところです。
日中に一度でも靴を脱げる人へ。かかとを抜ける形で乾かす:Rancourt
四つめは、形そのものを乾かすための形にするという考え方です。どんな靴でも、8時間履きっぱなしなら中は湿ります。逆に言えば、日中に一度でも空気を入れられれば状況は変わる。紐を解かずにかかとを抜ける靴は、そのための構造を最初から持っている、ということです。
Rancourt(ランコート)の話は1967年、アメリカ・メイン州ルイストンから始まります。モカシンづくりの中心地だったこの町で、デイヴ・ランコートが工場を開きました。会社はのちに人手に渡り、2008年には閉鎖が決まります。そこで息子のマイケルと孫のカイルが工場を買い戻し、2009年に「Rancourt & Co.」として再出発させました。いまも同じ町で、ハンドソーンという手縫いの製法を続けています。
作っているのはローファーやモカシンが中心で、ビーフロールのペニーローファーが看板です。手縫いのモカシン構造は返りがよく、かかとを抜き差ししても型崩れしにくい。デスクの下で靴を脱いでおける、というのは冬の蒸れ対策としてかなり効きます。ビジネスカジュアルが許される職場なら、これがいちばん実務的な答えかもしれません。
まとめ:靴を替えるより先に、乾かす時間をつくる
選び方の目安はこうです。通勤の革靴で蒸れるならハイドロテック。一日じゅう履きっぱなしならAstorflex。厚いブーツの中が蒸れるならRussell Moccasin。日中に脱げる環境ならRancourt。
最初の一足には、ハイドロテックをおすすめします。蒸れの困りごとがいちばん具体的に出るのは通勤の革靴で、そこに構造で答えている靴が国内で手に入りやすいからです。試着もできます。
ただし、正直に書いておきます。この記事で紹介した4足のどれを買っても、毎日同じ靴を履けば蒸れます。革が一日ぶんの水分を手放すには、一晩では足りません。いちばん効くのは2足を交互に回すことです。靴を1足買うより2足目を買うほうが効果が大きい、という場面が実際にあります。
あわせて、脱いだあとの扱いを3つ。中敷きが外れるなら外して、靴とは別に乾かしてください。ここがいちばん湿っています。シューキーパーは木製、なかでもレッドシダーを選んでください。同じ木でも樹種で吸湿性がまるで違います。ニス塗りのものは形を保つだけで湿気は吸いません。そして玄関の下駄箱にすぐしまわないこと。締め切った箱の中では乾きません。一晩、外に出しておくだけで翌朝が違います。
靴下も見直す価値があります。綿は汗を吸いますが、抱えたまま乾きません。羊毛や、乾きの速い化学繊維のほうが冬の靴の中では有利です。においが取れないところまで来てしまった靴は、菌が革の内側に住み着いている状態なので、消臭スプレーでは戻りません。専門の洗浄を扱う店に相談するか、そこで区切りをつけるか。そうなる前に、乾かす時間をつくるほうがずっと安上がりです。














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