イタリアに登山靴のブランドが多い理由は、2つの土地にある。語れる山靴4足

登山用品店の靴の棚を見ていると、イタリアのブランドがやたらと多いことに気づきます。なぜ山の靴はイタリアに集まっているのか。たどっていくと、行き着く先は2つの土地です。

ひとつはドロミテ周辺の谷。ここには山で働く人がたくさんいました。木を切る人、家畜を追う人。彼らが毎日履く靴を作る職人が谷ごとにいて、その工房のいくつかがそのままブランドになっています。登山という趣味が広まる前から、山の靴を作る技術がそこにあったわけです。

もうひとつがモンテベッルーナ。ヴェネト州の小さな町ですが、靴の工場が集まり、いまでは世界のスポーツシューズの首都と呼ばれています。今回は谷から2つ、モンテベッルーナから2つ、性格の違う4ブランドを紹介します。

目次

クライミングを始めたい人へ。木こりの靴屋が世界の岩場へ:La Sportiva タランチュラレース

La Sportiva(ラ・スポルティバ)の始まりは1928年、トレンティーノ地方のテゼーロという小さな村です。靴職人のナルチソ・デッラディオが、フィエンメ谷とファッサ谷で働く木こりと農民のために、木靴と革のブーツを作り始めました。

同じ1928年、彼はミラノの見本市に出て、その年に独特の靴紐の締め方で特許を取っています。この方式はのちに他の主要な靴メーカーにも使われました。村の靴屋が、いきなり業界へ広がる技術を出していたわけです。息子のフランチェスコが引き継いでテゼーロ郊外に新しい工房を建て、そこから世界へ。いまも会社は100パーセント、デッラディオ家のものです。

最初の一足なら、タランチュラレースです。紐で締めるタイプなので甲の高さに合わせて調整が効き、つま先が反っていないニュートラルな形なので足を選びません。ソールのゴムが厚めで硬いぶん、岩の細かい凹凸を感じ取る力は落ちますが、そのかわり小さな出っ張りに乗ったときに足が曲がらない。始めたばかりの人にはこの硬さのほうが登りやすいんです。いきなり上級者向けの深く反った型を買うと、痛くて続きません。

一足を直しながら履きたい人へ。ヴィブラムの創業者と組んだ靴屋:Zamberlan

Zamberlan
¥73,692 (2026/08/18 18:34時点 | Amazon調べ)

Zamberlan(ザンバラン)は1929年、ヴェネト州の小ドロミテのふもとで、ジュゼッペ・ザンバランが始めました。第一次大戦のあと、登山者のブーツを修理するところから入った人です。直しているうちに、山にはもっとましな靴が必要だと考えるようになった。

ここで登場するのが、ヴィブラムを生んだヴィターレ・ブラマーニです。2人は友人同士で、一緒に現代的なゴム底を形にしました。いま世界中の登山靴が黄色い八角形のマークをつけているソールは、その系譜にあります。

いま買う理由は、ノルウィージャン製法です。アッパーを外側へ折り返し、糸で縫い留める作り。折り返した縁が水を外へ落とすので濡れに強く、そしてソールを張り替えられます。何度でも、とまでは言えません。交換できる回数はアッパーと縫い代の状態次第です。ただアッパーが持つかぎり複数回は直せるので、10年単位で同じ一足を履く買い方ができます。996ヴィオースやトファーネがこの製法の代表です。日本では輸入元のキャラバンが修理を受けていて、ソール交換に4週間ほどかかります。重さはありますが、そこは製法との引き換えです。3代目のマリアとマルコが、いまも創業の地の工場で作り続けています。

雨と汗で足を濡らしたくない人へ。スポーツ靴の町の実務派:AKU

AKU
¥57,488 (2026/08/18 18:35時点 | Amazon調べ)
AKU
¥45,276 (2026/08/18 18:35時点 | Amazon調べ)

ここから産地が変わります。モンテベッルーナ。スキーブーツから登山靴、スポーツシューズまでを作る工場が集まった町です。

AKU(アク)はその町の家族経営のメーカーです。創業者のガリアーノ・ボルディンは、第二次大戦後のモンテベッルーナで、靴の修理と製作を覚えて育ちました。まず「ディンスポート」というブランドを立ち上げ、その経験を土台に、1990年代のヨーロッパ展開に合わせて生まれたのがAKUです。会社としては1989年を起点に掲げています。

特徴は実務的な作りです。ゴアテックスを早い時期から採用したブランドのひとつで、防水と透湿の扱いに慣れている。日本の山は雨が多いうえに湿度が高く、水を入れないことと汗を逃がすことを同時にやる必要がある土地なので、この方向は相性がいいと思います。ひとつ断っておくと、生産はモンテベッルーナの自社工場だけでなく、ルーマニアの自社拠点でも行われています。イタリア製かどうかを重視するなら、モデルごとの表記を確認してください。

山の靴を街でも履きたい人へ。K2の年号がそのままモデル名:Dolomite

Dolomite
¥58,711 (2026/08/18 18:36時点 | Amazon調べ)

Dolomite(ドロミテ)の始まりは1897年。当時17歳だったジュゼッペ・ガルブイオが「モンテッロ靴工場」という店を開いたのが最初です。厳しい山歩きに耐える靴を作る、という目標で立ち上がった会社でした。今回の4つでいちばん古い。

そして1954年。人類で初めてK2の頂に立ったイタリア隊が、この会社の靴を履いていました。世界第2の高峰、当時は登れない山と言われていた場所です。デザインの評価も高く、イタリアの「コンパッソ・ドーロ」を1957年と1967年の二度受けています。

その1954年が、そのまま代表作の名前になっています。「チンクアンタクアトロ」、イタリア語で54という意味です。クラシックなチロリアンシューズの顔をしていて、街で履いても浮きません。ただし本格的な登山靴ではないので、行き先は整備された低山のハイキングまでと考えてください。

もうひとつ、正直に書いておきます。このブランドは1998年にテクニカ・グループへ、2015年にはスイスのスコット・スポーツへと渡っていて、いまは創業家の会社ではありません。他の3つが家族経営を続けているのとは違います。それでも1954年の型が名前ごと残っていることには意味がある、というのが私の見方です。

まとめ:谷の職人と、町の工場

選び方の目安はこうです。クライミングを始めるならLa Sportiva タランチュラレース。一足を直しながら長く履きたいならZamberlan。雨の多い日本の山で使うならAKU。街でも履ける山靴が欲しいならDolomite。

本気で山に通うつもりなら、Zamberlanをおすすめします。ヴィブラムの創業者と友人だった靴屋が、いまも3代目の姉弟で、創業の地の工場で作っている。しかもソールを張り替えて何年も履ける。話の面白さと、買ったあとの長さが一致している数少ない山靴です。まずは軽く始めたいなら、Dolomiteのチンクアンタクアトロから入るのが敷居が低いと思います。

最後に、山靴を選ぶときの実際的なことを。試着は登山用の厚い靴下を持っていって、夕方にしてください。足は一日でむくむので、朝のサイズで選ぶと下山時にきつくなります。つま先に余裕を持たせるのは正解ですが、大きくしすぎるとかかとが浮いて、靴擦れと足首をひねる原因になります。長さだけでなく、幅と甲の高さで合わせて、かかとが浮かないかを必ず確認してください。

そして紐は、甲の部分と足首の部分を別々に締められるように結ぶ。下りで足が前に流れるのを止めるのは、足首側の締め具合です。どれだけ由緒あるブランドの靴でも、緩く履けばただの重い靴になります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

日常の靴選びから仕事に合わせた靴選びなど、さまざまな靴に関する情報をお届けしています。あなたの足元を彩る一足を見つけるお手伝いができれば幸いです。お気に入りの靴を見つけて、毎日の生活を足元から豊かにしてください。

コメント

コメントする

コメントは日本語で入力してください。(スパム対策)

CAPTCHA

目次