J.M.ウエストンだけじゃない。英国靴と違う答えを持つフランスの革靴4ブランド

革靴の話になると、出てくる名前はたいてい英国です。ノーサンプトンという町の名前まで覚えている人も珍しくありません。ではフランスの靴屋を4つ挙げてください、と言われるとどうでしょうか。J.M.ウエストンとパラブーツで止まる人がほとんどだと思います。

それは知名度の差ですが、中身の差ではありません。フランスには英国とは違う答えを出してきた工房があり、しかもその答えは英国靴では埋まらない部分に当たっています。雨の日のこと、スーツ以外の服に合わせること、少数だけ作ること。この記事はそういう話です。

目次

先に、英国靴とフランス靴の構造的な違いを

英国の革靴には中心があります。ノーサンプトンという町に主要なメーカーが集まっていて、製法もグッドイヤーウェルトでほぼ揃っている。だから「英国靴らしさ」という言葉が成立します。

フランスには、その中心がありません。今回の4つも、リモージュ、アルザス、そしてパリと、拠点がばらばらです。製法も揃っていない。だから「フランス靴らしさ」を一言で言うことはできないのですが、裏返すと、4つ選べば4つとも違う答えが返ってくるということでもあります。英国靴をすでに持っている人にとって、次の一足を探す場所としてはむしろ都合がいい。

スーツにもデニムにも履ける一足が欲しい人へ。名字を捨ててアメリカの町の名を選んだ:J.M.WESTON

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フランスのブランドなのに、名前が英語風です。理由をたどると、この会社の性格がそのまま出てきます。

始まりは1891年、エドゥアール・ブランシャールがリモージュに構えた靴の製造所でした。転機は息子のウジェーヌです。1904年にアメリカへ渡り、ボストン近郊のウェストンという町で、当時最新だったグッドイヤーウェルト製法を学びました。1907年に帰国して、その技術をリモージュに持ち込みます。

持ち帰ったのは製法だけではありません。同じ長さでも複数の幅を用意するという考え方も、このときアメリカから入りました。後述しますが、この記事でいちばん実利のある話はここです。

そして1922年、競馬場でパリ社交界の名士ジャン・ヴィアールと出会い、ふたりで「J.M. Weston」という商標を登録します。看板からブランシャールの名を下ろしたのは、父ではなくウジェーヌ自身でした。創業家の名を継ぐのが当たり前だった時代に、自分が技術を覚えた町の名前のほうを選んだわけです。

看板は1946年の「180シグニチャーローファー」。この数字は、一足を組み上げるのに必要な工程の数から来ています。1960年代にパリの若者が素足にデニムで履き始めたことで広がった靴なので、成り立ちからしてスーツ専用ではありません。英国靴を持っている人が休みの日の革靴を探しているなら、ここが第一候補です。

そのサイズです。180の幅はAからFまでの6段階あり、日本の店頭で見かけるのはDとEが中心。2Eや3Eという表記より刻みが細かい。ローファーは紐がないぶん、幅が合っていないと歩いているうちに脱げます。長さを下げる前に、幅を変える。幅を選ばずに買うと、このブランドの利点を半分捨てることになります。

雨の日も同じ靴で通したい人へ。スキーブーツを作っていた工房:Heschung

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英国靴で困るのが雨です。グッドイヤーウェルトは丈夫ですが、防水を目的に作られた製法ではありません。雨の予報が出るたびに別の靴を出すことになります。

Heschung(エシュン)は、その部分に答えを持っている工房です。1934年、ウジェーヌ・エシュンがアルザス地方のスタンブールという村で始めました。もとはデットヴィレールにあった靴工場の裁断職人で、独立して最初に作ったのは作業靴とブーツです。

性格を決めたのはそのあとの仕事です。1950年から1967年にかけて、ヴォージュ山地のスキーヤーと学校のスキー教室のために革のスキーブーツを作り、1968年からは2代目のロベールが競技用へ舵を切りました。街の靴屋ではなく、山で濡れる靴を作っていた会社なのです。

そこで使われたのがノルヴェイジャン製法でした。甲革を外側へ折り返して縫い付ける作りで、縫い目が上を向くぶん、下から水が入りにくい。スキーブーツに求められる防水性に、この製法が合っていたのだと公式に説明されています。いまの街履きの革靴にも、その作りがそのまま入っています。

看板は「ギンコ」というブーツ。イチョウの名を持つ代表的な型で、革とソールの組み合わせが何通りもあります。まずここから見るのが早い。

「それならパラブーツでいいのでは」と思った人もいるはずです。もっともな話で、あちらもノルヴェイジャン製法とラバーソールという同じ土俵にいます。違うのは出自で、パラブーツは自分たちでゴムのソールを作ることから始まった会社、エシュンはスキーブーツから来ている。同じ製法でも顔つきと厚みの出方が違います。

なお防水そのものが目的の靴ではないので、大雨の日の長靴代わりにはなりません。濡れる日があっても一足で通したい、という人のための靴です。

作り手の経歴までたどれる靴が欲しい人へ。フランスで唯一の称号を持つ:Corthay

1990年、パリ。ほとんど資金のない20代の職人が、ヴォルネー通りにあった靴職人アンリ・リショムの工房を買い取りました。新しく店を構えるのではなく、他人が積み上げた場所のほうを引き継いだわけです。この人が、いまのCorthay(コルテ)を作りました。

ピエール・コルテは1979年、コンパニオン・デュ・ドゥヴォワールという職人の互助組織に靴づくりで入りました。若い職人が各地の工房を渡り歩きながら腕を上げていく、フランスに古くからある制度です。修業を6年続け、そのあとジョン・ロブで1年半働き、ベルルッティの工房では責任者を務めました。

つまり冒頭の工房買収は、その修業を全部積んだうえでの独立でした。看板になっているのは「アルカ」という2つ穴のダービーです。名前はピエール・コルテの祖父が持っていたヨットから取られています。木型と型紙がこのメゾンの象徴として語られる型で、Corthayを見るならまずここからです。

2008年には「メートル・ダール」に認定されました。フランス文化省が技芸の継承者に与える称号で、靴づくりで持っているのは現在も彼ひとりです。誰にどこで習い、どの工房を引き継ぎ、国から何を認められたか。ここまで一本の線でたどれる作り手はそういません。

同じ場所で家族が作り続けている靴が欲しい人へ。90年、パリの同じ番地に:Aubercy

Aubercy(オーベルシー)は1935年、ルネとアンドレのオーベルシー夫妻が、パリのヴィヴィエンヌ通り34番地に開いた店から始まりました。90年たったいまも、同じ通りの同じ番地にあります。

最初のコレクションはビュット・ショーモン地区の小さな工房で仕立てた高級既製靴でした。戦間期のパリで、アンドレが親しくなった上流社会の好みに合わせた靴です。顧客にはエドワード8世やアルベール・サロー、レデ男爵といった名前が並びます。

いま率いているのは3代目のグザヴィエ・オーベルシー。父フィリップと母オデットから受け継ぎました。規模の小さな家族経営で、ロンドンの端正さとイタリアの華やかさをパリで折衷したような顔つきだと評されます。

選ぶ理由は、その規模の小ささそのものです。大量に流通していないので、履いている人と街ですれ違う確率が低い。次の一足で人と被りたくない、という人にはここがいちばん静かな答えになります。

この章だけモデル名を挙げていないのも、そのためです。既製に加えて別注や注文靴も受けている工房で、定番を並べて選ぶ買い方をしません。取扱店に足を運んで相談する種類の靴だと思ってください。

まとめ:フランス靴に「らしさ」を探すと、たぶん見つからない

選び方の目安はこうです。スーツ以外にも履ける一足ならJ.M.WESTON。雨の日も同じ靴で通したいならHeschung。作り手の来歴までたどれる靴ならCorthay。人と被らない一足ならAubercy。

最初の一足には、J.M.WESTONをおすすめします。日本で試着できる店がいちばん多く、幅も6段階から選べるからです。フランス靴に足を入れてみるという意味でも、180ローファーは分かりやすい。ここで自分の足とフランスの木型の相性が見えてから、Heschungの厚みやCorthayの仕立てに進むという順番が現実的です。

そのうえでひとつ。「フランス靴らしさ」を探すのは、たぶんうまくいきません。英国靴にはノーサンプトンとグッドイヤーウェルトという共通項があるので、らしさという言葉が成立します。フランスには中心がないので、共通項も出てきません。リモージュとアルザスとパリの工房が、それぞれ別のことをやっているだけです。

ただ、それは選ぶ側にとって悪い話ではありません。英国とフランスのどちらが上か、という問いにはあまり意味がなくて、実際に効くのは「いま自分の靴箱に足りていないものは何か」のほうです。雨の日に履ける一足がないのか、休みの日の革靴がないのか、人と被らないものが欲しいのか。そこを先に決めてから、この4つを見に行ってください。

最後にサイズの話を。フランスの靴はUKやUSとは別の表記を使うことが多く、同じ数字でも意味が違います。木型もブランドごとに違うので、いつもの英国靴のサイズをそのまま当てはめると外します。可能なら試着を。難しければ各社のサイズ換算を読み、返品条件を確認してから買ってください。

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この記事を書いた人

日常の靴選びから仕事に合わせた靴選びなど、さまざまな靴に関する情報をお届けしています。あなたの足元を彩る一足を見つけるお手伝いができれば幸いです。お気に入りの靴を見つけて、毎日の生活を足元から豊かにしてください。

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