日本の革靴は、4つの違う入口から生まれた。作り手の出自で選ぶ4ブランド

「国産の革靴」とひとくくりにされますが、中身はかなり違います。どこで、誰が、なぜ作り始めたのか。そこをたどると、同じ日本製でも性格がまるで別だと分かります。

産地もひとつではありません。浅草はよく知られていますが、奈良にも大阪にも千葉にも靴の会社があります。奈良には靴産業の組合まであるくらいです。

今回は、入口の違う4つのブランドを紹介します。戦地から帰ってきた人が始めた会社。他社の靴を作り続けてきた工場が、自分の名前で出したブランド。型紙を引く職人が独立して立ち上げたもの。そしてイタリアの製法を輸入して、日本人の足に合わせ直したもの。どれも国産ですが、目指しているものが違います。

目次

長く履ける定番から入りたい人へ。戦地から帰った人が始めた:オリエンタルシューズ

1947年、松本常雄という人が「松本工業所」という個人の工房を始めました。この人は第二次世界大戦のビルマ、いまのミャンマーの戦線から生きて帰ってきた人です。

戦地で靴がどれほど大事かを、身をもって知った。だから帰国してから靴を作り始めた、と伝えられています。合わない靴で歩き続けるとどうなるかを、いちばん過酷な形で経験した人が出発点にいる会社です。

1955年に奈良県の大和郡山市へ工場を新設し、1957年に法人化して東洋製靴、1964年にいまのオリエンタルシューズという社名になりました。ひとつ断っておくと、この1947年からの歴史は会社のものです。いま店頭で買えるブランドとしての靴が70年続いているわけではありません。長く他社の靴も作りながら、自分たちの名前でも出すようになった、という順序です。

奈良で作り続けていて、いまはドレスシューズからスニーカーまで幅があります。「TOUN」のようなシリーズもあり、価格帯も入口が広い。本社の工場に直営の店を構えていて、作っている場所で選べるのも珍しいところです。

この4つのなかでは、いちばん間口が広いブランドです。革靴を国産で一足、という人が最初に見るところとして現実的だと思います。

他社の名前で作られた靴の中身が欲しい人へ。OEM工場が出した自社ブランド:Perfetto

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百貨店に並んでいる革靴の多くは、ブランドの名前と、実際に作っている工場が別です。名前を出さずに他社の靴を作り続けてきた工場が、日本にはいくつもあります。

Perfetto(ペルフェット)は、そういう工場が自分の名前で出したブランドです。母体は株式会社ビナセーコーという紳士靴の工場で、1985年に千葉県の松戸市で始まりました。長年たくさんのブランドの製造を請け負ってきた会社が、その蓄積で自分たちの靴を作ろうとして、2000年代半ばに立ち上げたのがこのブランドです。

名前はイタリア語で「完璧」。グッドイヤーウェルト製法を土台に、経験のある職人の手仕事で組み上げます。他社の要求に応え続けてきた工場が、誰にも指図されずに作ったらどうなるか。そういう見方をすると面白い一足です。パターンオーダーの機会も定期的にあるので、既製で合わない人はそちらも見てみてください。

足の形が既製で埋まらない人へ。型紙の職人が独立した:RENDO

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靴づくりには「パタンナー」という職人がいます。革を裁断し、型紙を起こす人です。木型の形を、平面の紙に翻訳する仕事だと考えると分かりやすい。デザインと製造のあいだにいて、履き心地を決める部分をかなり握っています。

RENDO(レンド)は、そのパタンナーが自分のブランドを持った例です。吉見鉄平さんは大学在学中にロンドンの靴学校で基礎を学び、帰国後に浅草の靴学校でさらに深めました。2002年から浅草の紳士靴メーカーでパタンナーとして働き、国内外いろいろなブランドの靴づくりに関わっています。2008年にフリーランスとして独立し、2013年に東京・浅草でアトリエ兼ショップを構えて、自分のブランドを始めました。

型紙の職人が立ち上げたブランドなので、形と履き心地の関係に対する感度が違います。定番はエプロンフロントのダービーで、丸みのある顔つきです。既製とパターンオーダーの両方を扱っていて、足の形が既製で埋まらない人には後者という道が残されている。左右で足が違う人、幅か甲のどちらかがいつも合わない人には、ここが現実的な出口になります。

イタリア靴の顔が好きだが足が合わない人へ。製法を輸入して合わせ直した:ユニオンインペリアル

イタリア靴の細く優雅な顔つきに惹かれるけれど、履くと合わない。そういう人は多いと思います。木型が違う足を前提にしているからです。

ユニオンインペリアルは、そこを埋めようとしたブランドです。2008年にユニオン・ロイヤルという紳士靴のメーカーが立ち上げました。イタリアの製法をベースにしながら、木型は日本人の足に合わせて起こしてある。顔つきはイタリア寄り、中身は日本仕様、という組み合わせです。

そしてこのブランドで見逃せないのが製法です。主力のDress PREMIUM、Dress、Countryといったラインは、グッドイヤーウェルトではなくハンドソーンウェルテッド、つまり手縫いの製法で作られています。グッドイヤーは入口のEntry Lineのほう。手縫いのウェルトは、機械縫いより手間も時間もかかるぶん、返りがよく足に沿ってきます。品番でいうとSU001がDress PREMIUM、SU501がCountry、SU201が全天候型のラインにあたります。

母体をたどるとさらに古く、世界長ユニオンという会社に行き着きます。もとは大阪市北区の中津で始まった会社で、2010年にユニオン・ロイヤルと合併し、いまの本社は東京都江戸川区です。日本の靴づくりは浅草だけの話ではない、というのがこういうところにも出ています。

まとめ:同じ「国産」でも、目指しているものが違う

選び方の目安はこうです。国産の定番から入るならオリエンタルシューズ。作りの中身で選ぶならPerfetto。足の形が既製で埋まらないならRENDO。イタリア靴の顔で日本人の足に合うものならユニオンインペリアル。

最初の一足には、オリエンタルシューズをおすすめします。理由は出自にあります。この会社は長く他社の靴も作りながら、奈良で量を作ってきました。ドレスからスニーカーまで幅があるのは、その蓄積の広さがそのまま出ているからです。まず国産という土俵に立ってみたい人にとっては、失敗の幅がいちばん小さい。そこで自分の足の輪郭が見えてきたら、RENDOのパターンオーダーへ進むなり、ユニオンインペリアルの手縫いを試すなり、道が分かれます。

そのうえで、日本の靴を選ぶ意味を書いておきます。ただし「国産だから合う」とは言えません。海外ブランドにも複数のワイズを持つところはありますし、逆に国産でもワイズが一種類しかない靴は珍しくない。実際に効くのは国ではなく、ブランドごと木型ごとの違いです。それでも国産に分があるのは、日本人に多い形を前提に木型を起こしているぶん、当たりを引く確率が上がるという点。ブランドの格を下げる話ではなく、前提の合う靴を探すという話です。

もうひとつ。今回の4つは、いずれもパターンオーダーの仕組みを持っています。既製の木型から自分に近いものを選び、そこに革やソール、つま先の形を組み合わせていく方式です。完全な注文靴ほど身構えなくていいのに、既製では埋まらない部分が埋まる。ただし常時受け付けているとは限らず、受注会という形の場合もあるので、扱い店に時期を確認してください。何を履いても合わない、というところまで来ている人は、次の一足でここを試す価値があります。

最後に、買ったあとの話を。製法はブランドとラインで違います。グッドイヤーウェルトのものもあれば、ユニオンインペリアルの主力のように手縫いのウェルトもある。ただしどちらも縫って留めてある作りなので、ソールを張り替えながら長く履けます。買うときに製法の表記を見ておいてください。

そして国産であることの実利は、実はここにいちばん出ます。修理を頼む先が国内にあり、送るのも受け取るのも早い。海外ブランドで「本国送りで数か月」となる場面が、そもそも起きません。長く履く前提で考えるなら、この差は値段以上に効いてきます。

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この記事を書いた人

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