同じ23.5センチのパンプスなのに、あるブランドは履けて、別のブランドは小指が当たる。サイズを上げるとかかとが脱げる。下げるとつま先が痛い。何を買っても合わないので、そのうち「自分の足が悪いのだ」と思うようになる。
合わない理由は、たいていサイズではありません。木型です。紐のある靴なら、多少合わなくても締め方で調整できます。ところがパンプスには紐がない。足を止めているのは、甲の縁とかかとの形だけです。つまり木型の形がそのまま履き心地になる。同じ長さでも、つま先の尖り方、いちばん広い部分の位置、履き口の深さ、ヒールの角度が変われば、まったく別の靴です。
先に、自分の足を3つの点で見てください
ブランドの話に入る前に、自分の足を知っておくと選び方がまるで変わります。見るのは3点です。
ひとつめは指の長さの並び。親指がいちばん長い形、人差し指がいちばん長い形、指の長さがほぼ揃っている形の3つに大きく分かれます。日本人に多いのは親指がいちばん長いタイプです。この人が先の尖った靴を履くと、いちばん長い親指が真っ先に押し込まれます。斜めに切れ上がった形や、丸みのある形のほうが逃げがある。逆に指が揃っているタイプは、四角い形が楽です。ここが合っていないと、幅を広げても解決しません。
ふたつめは、足のいちばん広いところ、親指と小指の付け根を結んだ線の位置です。靴にも同じ「いちばん広い部分」があり、この2つがずれていると、足の広い部分が靴の狭い部分に当たります。小指が痛い人の多くは、幅ではなくこのずれが原因です。だからワンサイズ上げても、位置がずれたままなら痛いところは変わりません。
みっつめは時間です。足は一日でむくみます。夕方には朝より大きくなっている。朝は履けて夕方は痛い、という人は、サイズが合っていないのではなく、夕方の足に対して小さいだけかもしれません。試着は必ず夕方に。
この3つを踏まえて、痛みの原因ごとに4つのブランドを紹介します。
つま先の形が合わない人へ。木型に名前がついていて選べる:PELLICO
PELLICO(ペリーコ)は1963年、イタリアで靴工房として始まったブランドです。いまはルカ・パンパニンがオーナー兼デザイナーを務め、ヴェニス郊外のフォッソに本社と工場を置いています。
このブランドを最初に挙げる理由は、木型に名前がついていて、客の側が選べるからです。ここまで木型を前面に出しているブランドは多くありません。
代表的なのが3つ。「アンドレア」は2012年秋冬に出た木型で、つま先は尖っているのに幅にゆとりがあり、縦に長いシルエットです。ヒールの高さを忘れるような履き心地から「走れるパンプス」と呼ばれてきました。一度カタログから消えたあと、2024年春夏に復活しています。「アニマ」は2019年秋冬から。幅を狭くせずに、つま先を長く、履き口を浅くすることで足を細く見せた木型です。そして「クオーレ」はノーズが長くて都会的な顔ですが、幅はタイト。幅広の人はハーフサイズ上げるのがすすめられています。
幅で困っているならアンドレア、細く見せたいならアニマ、細身の足ならクオーレ。同じブランドの同じサイズでも、選ぶ木型で結果が変わる。この考え方を一度持つと、他のブランドの靴を手に取ったときにも、つま先の形と履き口を見て見当がつくようになります。
親指の付け根が痛くなる人へ。100年、踊る人の足を見てきた:Porselli
親指の付け根が痛む人は、木型より先にヒールの高さを疑ってください。ヒールが高いほど、体重は前足部、つまり指の付け根の側へ寄ります。研究でも、ハイヒールでは親指の付け根にかかる圧が大きく増えることが確認されています。痛むのはかかとではなく前足部で、その原因がヒールの高さにある、という順番です。だから3センチと7センチでは、同じ木型でもまったく違う靴になります。
とはいえ、ヒールが履けなくなった人にいきなりスニーカーを勧めるのは乱暴だと思います。仕事にも、きちんとした場にも、その中間が必要です。
Porselli(ポルセリ)は1919年、エウジェニオ・ポルセリがミラノで創業したバレエ用品の老舗です。ミラノ・スカラ座やローマのオペラ劇場、国立のダンスアカデミーが使ってきたブランドでもあります。何時間も跳んで着地する人の足に負担をかけない仕立てを、100年考えてきた会社です。その考え方が街履きのバレエシューズにそのまま入っている。全工程が職人の手作業で、いまもミラノで作られています。
自分の木型がまだ分からない人へ。履き比べられる国内ブランド:ダイアナ
ここまで「木型を選ぶ」と書いてきましたが、そのためには履き比べるしかありません。同じサイズで形の違うものを何足も足に入れて、当たる場所がどう変わるかを体で覚える。この練習ができる場所が要ります。
ダイアナは1948年、東京・銀座のすずらん通りに輸入婦人靴の専門店として開業しました。株式会社になったのが1953年です。そこからずっと婦人靴、とくにパンプスを軸にしてきた会社で、いまはファッションシューズの多くを国内の工場で作っています。
選ぶ理由は2つ。ひとつは、海外ブランドの木型が合わない人にとって、国内の作り手という選択肢が現実的であること。もうひとつは、店舗が多いことです。試着ができて、しかも同じ店の中で複数の形を比べられる。木型という考え方を身につけるための最初の一足としては、ここがいちばん実務的だと思います。
長く歩く日に痛くなる人へ。メノルカ島の踊り靴の工房から:Pretty Ballerinas
痛みの原因が木型でもヒールでもなく、単純に時間と距離だという場合があります。普段は平気なのに、出張や旅行の日だけ夕方に足が悲鳴を上げる。そういう人には、別の一足を持っておくという解き方があります。
始まりは1918年、地中海のメノルカ島フェレリアスにあった手作りのバレエシューズ工房でした。ペドロ・マスカロが、島の娘たちがバレエを練習できるように質のいいダンスシューズを作ったのが最初です。1950年代に息子のハイメ・マスカロが工場にし、そこから独立したブランドとして「Pretty Ballerinas」が生まれたのは1991年のことでした。
踊り靴から来ているので、革が柔らかく、底も薄い。足に沿って曲がるので、長く歩く日に向きます。色柄の展開が広いのも特徴で、黒いパンプス一辺倒になりがちな足元に変化をつけられます。鞄に入れておいて、移動のあいだだけ履き替える、という使い方もできます。
まとめ:ブランドを覚えるより、自分の足を言葉にする
選び方の目安はこうです。つま先の形が合わないならPELLICO。親指の付け根が痛むならPorselli。自分の木型がまだ分からないならダイアナ。長く歩く日の一足ならPretty Ballerinas。
最初の一足には、ダイアナをおすすめします。PELLICOのほうが木型の考え方は分かりやすいのですが、その前に「自分がどの形なら痛くないのか」を知っておく必要がある。店舗で何足も履き比べられる環境のほうが、いまの段階では価値が大きいと思います。自分の形が分かってから、木型を名指しで選べるブランドに進む。順番としてはこちらが確実です。
試着室で見るところを3つ。まず、つま先の形と自分の指の並びが合っているか。次に、歩いてみてかかとが浮かないか。パンプスは多少動くのが普通なので、指1本が入るほど浮くなら合っていない、くらいを目安にしてください。ここでサイズを下げると今度はつま先が犠牲になるので、直すのはサイズではなく木型です。そして履き口の深さ。浅いと甲を押さえられず、足が前に滑ります。前に滑れば、当然つま先が当たる。「つま先が痛い」の原因が履き口にある、というのはよくある話です。
いま持っている痛い靴にも、できることはあります。前に滑るなら、前すべり防止のパッドを甲の裏に貼る。かかとが浮くならヒールグリップ。ただしどれも数ミリの調整なので、木型が根本的に合っていない靴を救うことはできません。1シーズン我慢して履き続けるより、その靴は手放して、合う木型を探す時間に使ったほうが結局は安くつきます。
最後にひとつ。親指の付け根の変形が進んでいる、指がしびれる、痛みが休んでも引かない。こうした場合は靴を替える前に整形外科で相談してください。木型で解決できる範囲と、そうでない範囲があります。














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