革靴を買うと、店で勧められることがあります。シューキーパー、あるいはシューツリー。入れておくと長持ちします、と。
売り場に行くと、木のものとプラスチックのものが並んでいて、木のほうが高い。そして「木は湿気を吸う」と書いてある。だから木を買っておけば間違いない、と考えます。
ところがここに落とし穴があります。木なら吸う、とは限りません。そしてプラスチックだから湿気に弱い、というのも正しくありません。見るべきところが、素材とは別のところにあります。
先に、シューキーパーがやっている3つの仕事を
この道具の仕事は、大きく3つです。スコッチグレインが直営店のブログで挙げているものを借りてきます。ここはレギュラーの商品にシューキーパーを付けて売っているメーカーなので、説明が具体的です(レディースには付属していない、とも書かれています)。
1つめ、形を保つこと。履いた後の履きジワを伸ばしたり、底の反りを直して靴の型崩れを防ぐとされています。「甲のシワを伸ばす」だけでなく底の反りを直すが入っているのが大事なところです。一日履いた靴は、つま先側が反り上がった状態で脱がれます。
2つめ、湿気を処理すること。ここが後で詳しく書く部分です。
3つめは、意外と知られていません。手入れの台になることです。同じ説明に、ブラッシングやクリームを塗るお手入れの際に甲革が張るので、塗りやすく持ちやすくなるとあります。クリームを塗るときに靴がぐにゃぐにゃして塗りにくいのは、中に何も入っていないからです。手入れをする人ほど、この道具の元が取れます。
湿気の担当は、素材ではなく「仕上げ」と「形」で決まります
ここが本題です。湿気については、2つのことを別々に見る必要があります。表面が水分を吸えるかどうかと、形が空気を通すかどうかです。
まず、吸うほうから。木製が勧められるのは、木が湿気を吸うからです。とくにシダー(米杉)は吸湿性が高く、独特の香りがあって、においを抑える働きも期待できるとされています。
ところが、ここに条件が付きます。靴の手入れの質問に答えるサイトや専門店の解説で、そろって指摘されていることがあります。ニス仕上げの木は、吸湿性がほとんど望めません。表面が塗料でふさがれているからです。
つまり、木だから吸う、のではありません。塗り固められていない木だから吸うのです。吸湿を期待するなら、無垢のままの素仕上げか、吸湿性を損なわないとされるオイル仕上げ、ワックス仕上げを選ぶことになります。つやつやに塗られた木製シューキーパーは、見た目は高級ですが、湿気については何もしていない可能性があります。
次に、形のほう。さきほどのメーカーが、自社の付属品であるプラスチック製についてこう書いています。
「シューツリーより隙間が多いので靴の中のライニングが吸った汗が蒸発しやすいです」。そして「プラスチック製だからと侮るなかれ」とも。
これは「プラスチックのほうが優れている」という主張ではありません。付属品でも十分に働きますよ、というフォローです。ただ、ここで比較されているのが素材ではなく形だという点が大事です。靴の内側の形にぴったり作られたシューツリーは、ふさぐ面積が大きい。骨組みだけのものは、空気が通る。
この2つを掛け合わせると、売り場の見え方が変わります。買う前に見るのは「木かプラか」ではなく、「表面が塗り固められていないか」と「形が詰まっているか」の2つです。
いちばん避けたい組み合わせも、これで分かります。ニスでつやつやに塗られた、ぴったり詰まった木製。吸いもしないし、空気も通さない。しかも値段はいちばん高い部類です。
本命の一足に入れるなら。力を自分で決められる:無垢の木製・ネジ式
いちばん長く履きたい一足には、これを勧めます。条件は2つ。表面が塗り固められていないことと、前後の長さをネジで調整できることです。
ネジ式が効くのは、力のかかり方を選べるからです。バネのものは「入るところまで入る」ので、強さを決められません。ネジ式なら、どのくらい張らせるかを自分で決められます。
そしてここに、必ず守るべき注意があります。メーカーの説明にこうあります。靴のウィズや履きこんだ後の革の伸び具合によって調節してほしいが、あんまりきつくし過ぎると、靴の形が変わってしまったり、靴を傷めることにもなる。
シワが伸びるからといって、限界まで締めないこと。目的は形を保つことであって、広げることではありません。ぴんと張って、そこで止める。ここを間違えると、型崩れを防ぐ道具で型崩れさせます。
予算の感覚も書いておきます。この形はいちばん高い部類で、ネジ式1組ぶんで、後述するバネ式なら数組買えるくらいの差があります。だから全部をこれで揃える必要はありません。手入れをする靴、毎日履く靴からです。
数を揃えたい人へ。入れておくだけなら十分:木製のバネ式
現実的な話をします。革靴を1日履いたら1日から2日は休ませるのが基本だとされています。つまりまともに回そうとすると、靴は最低でも2、3足要ります。そして休ませている靴にこそ、シューキーパーが要ります。
そうなると、全部をネジ式で揃えるのはなかなかの出費です。そこでバネ式。前後がバネでつながっていて、押し縮めて入れるだけ。手頃で、出し入れが速い。そして骨組みの形なので、空気も通ります。木で、塗り固められていなければ、吸いもする。悪くない組み合わせです。
弱点は力の強さを選べないことです。バネの強いものを長く入れっぱなしにすると、革が伸びていくという指摘があります。
だから毎日履く靴と手入れをする靴にはネジ式、出番の少ない靴にはバネ式、という分け方が現実的だと思います。
出張と、蒸れた日に:プラスチック製
プラスチックの利点は3つあります。軽いこと、水に強いこと、そして安く数を揃えられることです。
軽さは持ち運びに効きます。出張で靴を鞄に入れるとき、木のシューツリーを入れると、それだけで重さと体積を食います。プラスチックなら負担になりません。
水に強いのも実用的です。雨に降られた靴や、洗ったばかりのスニーカーに木を入れると、木のほうが濡れます。濡れた靴に入れるなら、こちらのほうが気楽です。
ただし吸湿はしません。骨組みなので空気は通りますが、それは「吸い出す」のとは違う働きです。湿気を本気で何とかしたいなら、靴用の乾燥剤と組み合わせるほうが早い。
そしてもうひとつ、大事な注意を。プラスチック製にもバネ式のものが多くあります。「木ではないから安心」ということはありません。力が強いものを長く入れっぱなしにすると革が伸びる、という話は、素材を問わず同じです。付属していたものを入れたままにしているなら、一度取り出して、押し込むときに無理がないかを確かめてみてください。
なお、靴を買ったときにシューキーパーが付いてくるのは、そういうメーカーの場合だけです。付いていなかったからといって、粗末な靴だという話ではありません。ただ、付いていたなら捨てないでください。作っている側が「侮るなかれ」と言っているものです。
スニーカーにも要るのか:スニーカー用のシューキーパー
革靴の道具だと思われがちですが、スニーカーにも使います。
靴メーカーが案内しているスニーカーの洗い方には、洗ったあとの工程としてシューキーパーや靴用乾燥剤を入れ、湿気がなくなるまで完全に乾かすと書かれています。洗ったスニーカーは形が崩れやすく、乾くのに丸一日かかります。その間ずっと形を保っていてくれるわけです。
ただし革靴用をそのまま入れないでください。スニーカーは甲が柔らかいので、革靴と同じ力で張ると形が変わります。力の弱い、スニーカー用として売られているものを選んでください。
逆に、いちばん要らないのは毎日履いているスニーカーかもしれません。次の日にまた履くなら、形が崩れる暇がない。要るのは、しばらく履かない靴と、洗ったあとです。
サイズの選び方。小さすぎても効きません
ここで失敗する人が多いので、独立させます。
まず、シューキーパーは1センチ刻みでは売られていません。多くが「このサイズからこのサイズまで」という幅で作られていて、その中で前後を伸縮させて合わせます。だから、自分の靴の表示サイズがその幅に入っているかを見ます。
失敗は両方向に起きます。大きすぎると、押し込んだ時点で常に強い力がかかり続けます。これがいちばん危ない。小さすぎると、かかとまで届かず、そもそも張りません。入れているのに効いていない、という状態です。
そして力を調整できないバネ式ほど、サイズ選びが効いてきます。ネジ式は締めすぎても緩めれば直せますが、バネ式は入れた瞬間の強さがそのままです。安いほうこそ、サイズを慎重に選んでください。
幅も見てください。メーカーが靴のウィズによって調節をと書いているように、幅の広い靴に細いものを入れると横が支えられず、逆に細い靴に幅の広いものを入れると横に押し広げます。3Eや4Eの靴を履いている人は、幅の表記があるものを探すほうが安全です。
いつ入れるのか。ここは意見が割れています
最後に、この道具でいちばん議論になる話です。脱いですぐ入れるのか、一晩置いてから入れるのか。
正直に書くと、ここは決着していません。専門店の解説でも「諸説あり」と前置きされているくらいです。両方の言い分を並べます。
すぐ入れる派。脱いだ直後の革は汗を含んでいちばん柔らかい。そのタイミングで張らせるとシワがよく伸び、形も決まりやすい。吸う素材なら、いちばん湿っている瞬間に働けます。
一晩置く派。すぐ入れると、湿気がこもった状態でふさぐことになる。まず空気にさらして飛ばしてから入れるほうが、においの面でもいい。
この記事の立場を書きます。争点は結局「ふさぐかどうか」なので、さっきの2つの見方がそのまま使えます。骨組みで空気が通るもの、あるいは吸える素材のものなら、脱いですぐ入れて構わない。ふさぐ形で、しかも塗り固められているものなら、先に湿気を飛ばしてから入れるほうが理にかなっています。
入れっぱなしについても書いておきます。力の強いものを長期間入れたままにすると革が伸びる、という指摘があります。ネジ式なら緩めておけば済みます。長くしまう靴には、力を抜いた状態で形だけ支えさせるのが安全です。
そして吸う素材のものについて、ひとつ。吸った木は、湿気を靴の外へ運び出してくれるわけではありません。木自身が湿ったまま、靴の中にいます。梅雨どきや、雨の日が続いたあとは、たまに取り出して風に当ててください。吸う道具を入れっぱなしにして、湿ったまま働かせているのはよくある話です。
まとめ:売り場で見るのは、値札ではなく表面と形です
整理します。手入れをする本命の一足には、無垢の木製ネジ式。休ませる靴の数だけ揃えるなら木製バネ式。出張と、濡れた靴と、洗ったスニーカーにはプラスチック。スニーカーには力の弱い専用品。
まず1つだけと言われたら、いちばん高い革靴に、無垢の木製ネジ式です。3つの仕事を全部やります。形を保ち、湿気を吸い、手入れのときの台にもなる。
そして覚えて帰ってほしいのは、この2つです。木でも、ニスで塗り固められていれば吸いません。プラスチックでも、骨組みなら空気は通ります。素材の名前で決めると外します。売り場では値札ではなく、表面がつやつやに塗られていないかと、形が詰まっていないかを見てください。
最後に力の話をもう一度。この道具の目的は、形を保つことです。広げることでも、伸ばすことでもありません。きつくすればよく効く、という種類の道具ではないので、そこだけ間違えないでください。
脱いだ靴に何かを入れておく。それだけの習慣で、同じ靴を何年か長く履けます。手間としては、いちばん割のいい部類だと思います。














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