季節が変わって、履かなくなった靴を下駄箱の奥へ。そして来年、出してみたら白い粉のようなものが浮いている。においがする。形が崩れている。
靴が傷むのは、履いているあいだだけではありません。履いていない何か月かのあいだにも、確実に進みます。しかもこちらは、しまい方でほとんど防げます。
先に、カビが生える条件を
保管の失敗でいちばん多いのがカビです。カビが育つには、温度、水分、栄養、そして酸素といった条件が関わります。文部科学省の資料では、カビはおおむね0度から40度で育ち、いちばん元気なのは25度から28度だとされています。まさに日本の家の中の温度です。
ここで現実的に考えます。温度は変えられません。下駄箱だけ涼しくしておくことはできない。酸素も同じで、家庭で断つには脱酸素剤を入れて完全に密封する必要があり、靴の保管でそこまでやる人はまずいません。
つまり、私たちが手をつけられるのは残りの2つ、水分と栄養です。言い換えれば、湿気を減らすことと、汚れを残さないこと。この記事はその2つの話になります。
汚れのほうは、しまう前の一手間で済みます。ホコリを払って、汚れを落として、乾かしてからしまう。この順番です。逆にやってはいけないのが、履いたその日に汚れたまま箱へ入れること。汗の湿気と、皮脂や汚れという栄養を、密閉した空間に閉じ込めることになります。カビにとってこれ以上ない条件が、そこから何か月も続きます。
そして湿気。ここからが道具の出番です。ただしひとつ注意があって、ただ密閉すればいいというものではありません。袋や箱で包んでも、中の酸素はそのまま残ります。減らせないものは残り、逃がしたい湿気だけが閉じ込められる。いちばん避けたい組み合わせです。閉じ込めるのではなく、湿気を吸わせるか、逃がすか。この2つで考えてください。
もうひとつ、型崩れの話も保管には付いてきますが、これはシューキーパーの話になります。別の記事で道具の選び方を書いているので、そちらを見てください。ここでは湿気とカビに絞ります。
靴の中に入れる人へ。繰り返し使える:シリカゲルの乾燥剤
まず、靴の内側です。湿気がいちばん溜まるのは、足が入っていた空間そのものだからです。
ここに入れるならシリカゲルが向いています。粒状の乾燥剤で、素早く湿気を吸い、しかもかさばりません。靴の中という狭い場所に押し込めるのは、この性質のおかげです。
そして最大の利点が、繰り返し使えることです。B型と呼ばれる種類のもので、吸湿して働かなくなっても、天日に干せば力が戻ります。吸える量はメーカーの説明で自分の重さのおよそ半分。色が変わって知らせてくれる製品もあるので、そういうものを選ぶと替えどきに迷いません。
ひとつ注意を。再生の方法は製品によって違います。天日干しでいいものもあれば、電子レンジで加熱するよう指定されているものもある。同じ「繰り返し使える乾燥剤」でも中身の種類が違うので、袋の裏の説明を必ず読んでください。天日で足りないものを干し続けても戻りません。
使い方は、乾かした靴の中に片足ずつひとつ入れておくだけ。長いブーツなら2つ入れてもいい。入れっぱなしにして忘れると意味がないので、季節の変わり目に一度、干して戻すことを習慣にしてください。
下駄箱ごと乾かしたい人へ。吸う量が多い:塩化カルシウムの除湿剤
靴の中を乾かしても、しまってある空間そのものが湿っていては同じことです。そこで、下駄箱や押し入れ全体を担当するのがこちらになります。
容器に粒が入っていて、水が溜まっていくあれです。中身は塩化カルシウム。空気中の水分を吸って、液体やゼリー状に変わっていきます。
シリカゲルとの違いは2つあります。ひとつは吸える量で、メーカーの説明では自分の重さの2倍ほどの水分を吸うとされています。シリカゲルが自重の半分ほどなので、桁が違う。だから広い空間に向きます。もうひとつは、繰り返し使えないこと。液体になってしまうので、溜まったら捨てて新しいものに替えます。
つまり使い分けはこうなります。靴の中など狭くて繰り返し使いたい場所にはシリカゲル、下駄箱やクローゼットのような広い空間には塩化カルシウム。両方を同時に使うのが理想で、役割が重なりません。
置く場所にもコツがあります。湿った空気は下に溜まるので、棚の下のほうに置くほうが効きます。そして液体が溜まるものなので、倒れない場所に。革靴の上に倒れると悲惨なことになります。
ホコリから守りたい人へ。ビニール袋は避ける:不織布の靴袋
長くしまう靴には、袋をかけておきたくなります。ホコリが積もると、それ自体がカビの栄養になるからです。
ここで選ぶべきは不織布の袋です。そして選ぶべきでないのがビニール袋。靴を買ったときの袋や、家にあるポリ袋で包んでしまう人がいますが、これは前置きに書いた「密閉」そのものです。中の湿気が逃げられず、袋の内側で結露することすらあります。
不織布なら、ホコリは通さずに空気は通します。ホコリを防ぐという目的だけを果たして、湿気を閉じ込めないという点で理にかなっています。
買ったときに付いてきた布の袋があるなら、それで十分です。片方ずつ入れる細長いタイプと、一足まとめて入れるタイプがあるので、しまい方に合わせて選んでください。
箱で積んでおきたい人へ。空気の通り道をつくる:収納ケース
靴が多い家では、下駄箱に入りきらないぶんを箱で積むことになります。その箱をどう選ぶか。
いちばん大事なのは、空気が通るかどうかです。完全に密閉される透明なケースは、中身が見えて積みやすい反面、湿気の逃げ場がありません。通気の穴が開いているものを選ぶか、そうでないなら中に乾燥剤を必ず入れてください。
靴を買ったときの紙箱をそのまま使う手もあります。紙は湿気を吸うので、ビニールよりは向いている。ただし紙箱自体が湿気を含んだままだと逆効果なので、しまう前に箱のほうも風を通しておくといいです。
置き場所も重要です。押し入れの奥や、床に直置きは避けたい。湿気は低いところと、空気が動かないところに溜まります。少し高い位置に、壁から離して置く。それだけで条件が変わります。
まとめ:閉じ込めるのではなく、吸わせて逃がす
道具の使い分けはこうです。靴の中にはシリカゲル。下駄箱全体には塩化カルシウム。ホコリよけには不織布の袋。あふれるぶんは通気のある収納ケース。
まず1つだけと言われたら、シリカゲルの乾燥剤です。湿気がいちばん溜まるのは靴の内側で、そこに直接効くからです。しかも繰り返し使えるので、一度買えば毎年働いてくれます。
そして道具を買う前に、しまう手順を守ってください。ブラシでホコリを落とす。汚れがあれば落とす。風を通して完全に乾かす。それからしまう。この順番を飛ばして乾燥剤だけ入れても、栄養を残したまま湿気だけ取ることになるので、効きが半分になります。
しまったあとにもひとつ。ときどき扉を開けて、空気を入れ替えてください。何か月も閉じたままにするより、月に一度でも風を通したほうが確実です。乾燥剤の状態を見るついでにやると忘れません。
ここまでが保管の話です。最後に、スニーカーを持っている人と、すでにカビを出してしまった人に向けて、それぞれ書いておきます。
スニーカーをしまう人へ。履かないほうが壊れることがある
ソールにポリウレタンを使った靴には、加水分解という現象があります。空気中の水分と反応して素材が分解していくもので、進むとソールがぼろぼろと崩れます。
厄介なのは、履いていなくても進むことです。メーカーの説明では、製造からおおむね5年を過ぎると表面化してくると言われ、高温で水分のある状態ではもっと早く進むとされています。つまり、大事にしまい込んだ一足ほど危ない。何年も箱の中にあったスニーカーを久しぶりに履いて、歩いている途中で底が崩れた、という話はここから来ています。
対策はいくつかあります。ある程度の頻度で履くこと。湿気の少ない場所に置くこと。そして、ソールの交換ができる作りの靴なら、直すという道もあります。何年も出番のない一足があるなら、たまに履くか、直すか、手放すか。しまい込んだまま忘れるのがいちばん惜しい結末です。
すでにカビが出てしまった人へ。乾いた布で払わない
ここは順番を間違えると、自分の健康と靴の両方を損ないます。
まずマスクをつけてください。ケア用品メーカーの手順にも、カビを吸い込まないようマスク等を着用してから行うこと、と明記されています。そして風通しのいい場所で作業します。
そのうえで、乾いた布で払うのはやめてください。胞子が舞い上がるだけで、根本的に取れてもいません。メーカーが案内している手順は、カビ取り用のミストを布に吹いてよく湿らせ、その布で拭き取るというものです。布は面を変えながら使います。
拭き取ったあとは、カビが生えていた部分に10センチほど離して直接スプレーし、液は拭き取らずにそのまま日陰で乾かします。乾いてから革のクリームを入れて仕上げる。スエードならブラシで毛を起こします。
やってはいけないのが、慌てて水拭きすることです。革は水を吸ってシミになります。カビは取れたけれど跡が残った、という結果になりがちです。範囲が広い場合や、大事な一足の場合は、修理店やクリーニングに相談するほうが確実です。














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