慶弔は急に来る。前の晩に慌てないための、黒い靴まわりの4つ

訃報は予告なく届きます。明日の午後に行くことになった、と決まったのが夜。慌てて下駄箱を開けて、黒い靴を引っ張り出したら、かかとが削れていた。あるいは、そもそも持っていなかった。

結婚式は招待状が来るので準備できます。ところが弔事は違う。前の晩に気づいても、たいていの店はもう閉まっています。だからこの分野だけは、必要になる前に揃えておくしかありません。

先に断っておくと、この手の作法は地域や家によって違います。この記事は「一般にこうとされている」という話であって、絶対の決まりではありません。迷ったら、その場をよく知っている人に聞くのがいちばん確実です。

目次

先に、靴の格式がどこで決まるのかを

革靴の格の高さは、主に2か所で決まります。紐を通す部分の作りと、つま先のデザインです。

ひとつめが羽根、つまり紐穴のある部分です。ここには「内羽根」と「外羽根」があります。内羽根は、紐穴のパーツが甲の革の内側に潜り込んでいて、履き口が閉じるとV字がきれいに合わさる作り。外羽根は、紐穴のパーツが甲の上に乗っていて、大きく開きます。

格が高いとされるのは内羽根です。外羽根は履きやすく実用的なぶん、畏まらない場面のものとされます。だから葬儀では、基本的に内羽根が標準です。

ふたつめがつま先。ここで最上位とされるのがストレートチップです。つま先に横一文字の切り替えが入っているデザインで、あの一本線があるかどうかで扱いが変わります。

この2つを合わせた「内羽根のストレートチップで、黒の紐靴」が、慶弔の場でいちばん間違いのない形になります。しかもこれは、仕事でも使える。一足あれば守備範囲がかなり広い、というのがこの分野の救いです。

そしてもうひとつ、弔事に固有の考え方があります。光らせないことです。金や銀の金具、リボンなどの飾り、光を反射する素材。これらは避けるのが一般的とされています。理由も明快で、故人を悼み、遺族をいたわる場だから、身を慎むという考え方です。この「光らせない」は、あとで手入れの話にも関わってきます。

一足だけ持つならこれ、という人へ。慶弔とビジネスを兼ねる:内羽根ストレートチップ

男性がまず揃えるべきはこれです。黒の革で、内羽根で、つま先に横一文字。

選ぶときに見るところを挙げます。まず色は黒。茶色は、どれだけ上等でも弔事では使いません。次に紐であること。スリッポンやローファーは、紐で締めないぶん格が下がる扱いになります。そして金具がないこと。飾りのバックルや、光る留め具のあるものは避けます。

素材も見てください。エナメルのように光を強く反射するものは、慶事ならともかく弔事には向きません。スエードのような起毛の革も、フォーマルの場では扱いが別になります。素直な黒のスムースレザーが、いちばん潰しが効きます。

そしてこの一足は、普段の仕事でも履けます。むしろ履いておいたほうがいい。理由は次の章に書きますが、何年も下駄箱で眠っていた靴は、いざというときに使えない状態になっていることが多いからです。

女性が揃えるなら。飾らない、光らせない:黒のパンプス

女性の場合、基本になるのは黒のパンプスです。考え方は男性の靴と同じで、飾らないこと、光らせないことが軸になります。

避けたいものを挙げるほうが早いと思います。金具やビジュー、リボンなどの飾りがついたもの。エナメルのように光る素材。つま先が開いたもの。極端に尖ったつま先。厚底やウェッジ。そして細すぎるピンヒール。これらは弔事では避けるのが一般的です。

ヒールの高さには目安があります。葬儀社の案内では3センチから5センチのミドルヒールが最適とされることが多い。低すぎるとカジュアルに見え、高すぎると華美になる、という考え方です。実用の面でも、この高さは理にかなっています。弔事は立っている時間が長く、砂利道や畳の上を歩く場面もある。細すぎないヒールのほうが、一日を無事に過ごせます。

音の問題もあります。静かな場で、かかとがコツコツ鳴るのは気になるものです。底がゴムのものを選ぶか、気になるなら修理店で滑り止めを貼ってもらう手もあります。

足元でいちばん見落とされる人へ。ここだけ忘れる:黒の靴下とストッキング

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靴は用意したのに、ここで失敗する人がとても多い。

男性の場合、黒の靴下です。そしてに注意してください。座ったときや、正座から立ち上がるときに、裾が上がって脛が見えます。くるぶし丈だと、あの瞬間に素肌が出る。ふくらはぎをおおう長さを選んでおけば、その心配がありません。

柄も見てください。無地の黒が基本です。仕事用の靴下は、よく見ると細かい柄や、かかとやつま先だけ色が違うものが混じっています。玄関で履くときに気づいても、もう遅い。

女性の場合は黒のストッキングが一般的とされます。ここには厚さの目安があって、葬儀社の案内では30デニールを基準にとされることが多い。肌が少し透ける程度、という考え方です。

そしてタイツには注意してください。60デニール以下なら透け感があるので許容範囲とする案内もありますが、一方でタイツを履くこと自体をマナー違反と考える人も少なくないとされています。手持ちの黒タイツで済ませようとする人は多いのですが、ここは薄手のストッキングを別に用意しておくほうが無難です。寒い地域や、体調の事情がある場合は別の判断もあります。

予備を1つ、鞄か車に入れておくこともおすすめします。伝線は必ず、いちばん困る日に起きます。

靴と違って、靴下やストッキングは畳んでおけます。場所を取らないので、慶弔用として一組だけ別にしておくのがいちばん確実です。普段使いの引き出しに混ぜると、必ず行方不明になります。

直前に慌てたくない人へ。ただし磨きすぎない:黒のクリームと布

最後は手入れの話です。そしてここに、この記事でいちばん意外な決まりがあります。

ふだん革靴の手入れといえば、磨いて艶を出すのが目標です。ところが弔事では、磨きすぎて光沢を出すのは良くないとされています。光るものを避けるという考え方が、手入れにまで及ぶわけです。

だからここでやるべきは、鏡のように光らせることではありません。汚れを落とし、色の抜けたところを黒く戻し、乾いた革に潤いを入れる。そこまでです。つま先を鏡面に仕上げるワックスは、この場では出番がありません。

用意しておくなら、黒のクリームと布。無色のクリームでも手入れはできますが、色が抜けた部分は無色では戻りません。弔事の靴は履く回数が少なく、そのぶん一か所の傷や色抜けが目立ちます。黒を持っておくほうが実用的です。

すでにつま先を鏡のように磨いてある靴を弔事に使いたい場合は、その層を落とす必要があります。ワックスはクリーナーで落とせるので、光っている部分を拭き取ってから、あらためてクリームを入れ直してください。仕事用に育てた一足をそのまま持っていくと、つま先だけが場違いに光ります。

そして前日の夜にやらないこと。クリームを入れた直後はしっとりしていて、乾くまでに時間がかかります。慌ててやると、かえってムラが出ます。

結婚式はどう違うのか。男性はそのまま、女性は逆になる

ここまで弔事を中心に書いてきました。では慶事、つまり結婚式ではどうか。ここに面白い違いがあります。

男性は、ほとんど同じです。結婚式の案内でも、いちばんフォーマルとされるのは黒の内羽根ストレートチップ。この記事の最初に勧めた一足が、そのまま通ります。避けるべきものも似ていて、スニーカー、ブーツ、サンダルは論外。そしてローファーやタッセル、つま先に穴飾りの入ったデザインも避けるとされています。つまり男性は、本当に一足で足ります。

ところが女性は、ほぼ逆になります。弔事では避けるべきだったエナメルやシルクの光沢が、慶事ではむしろエレガントさを添えるものとして扱われます。冬ならスエードやベルベットもよいとされる。光らせないという弔事の原則が、そのままひっくり返るわけです。

共通しているのは、露出を避けるという点です。慶事でもつま先が隠れているパンプスなら間違いないとされ、サンダル、ブーツ、オープントゥは避ける。かかとが出るバックストラップも、露出が大きくなるので避けたほうが無難だとされています。ヒールは3センチ以上あるほうが、きちんとした印象になります。

整理すると、こうなります。男性は黒の内羽根ストレートチップが一足あれば慶弔とも通る。女性は、弔事用のマットな黒と、慶事用の光沢のあるものを、別に持っておく必要がある。この非対称は、揃えるときに知っておいたほうがいい話です。

まとめ:必要になる日の前に、一度履いておく

揃えるものを整理します。男性は、内羽根ストレートチップの黒。ふくらはぎ丈の黒い靴下。黒のクリームと布。これで慶弔とも通ります。女性は、弔事用の飾りのない黒いパンプスと、30デニールほどのストッキング。そこに慶事用の一足が別に要ります。

まず1つだけと言われたら、当然ながら靴です。ただし本当に大事なのは、買ったあとの扱いのほうかもしれません。

この記事でいちばん伝えたいのは、慶弔用の靴を「しまい込まない」ということです。年に一度あるかないかの出番のために下駄箱の奥へ入れておくと、必ず良くないことが起きます。革が乾いて硬くなる。カビが出る。ソールの素材によっては、履いていないのに劣化が進む。そして何より、久しぶりに履いた靴は足に馴染んでいないので、慣れない場でひどい靴擦れを起こします。

だから内羽根ストレートチップは、仕事でも使ってください。黒の紐靴はどんな職場でも通ります。定期的に履いていれば、足に馴染んだ状態が保たれ、状態にも自然と目が届きます。

そのうえで、季節の変わり目に一度、確認する日を作ってください。見るのは3か所。かかとのゴムが削れていないか。カビや白い粉が出ていないか。中敷きや裏地が傷んでいないか。ここで気づけば、修理に出す時間があります。訃報が届いた夜に気づいても、できることはほとんどありません。

最後にもう一度だけ。この記事に書いたことは、一般にそうとされている作法です。地域によっても、家によっても違います。特に判断に迷う場面があったら、その場に詳しい人に聞いてください。ただ、内羽根で、黒で、飾りがなく、光っていない靴。この4つを満たしていれば、たいていの場は問題なく通ります。

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この記事を書いた人

日常の靴選びから仕事に合わせた靴選びなど、さまざまな靴に関する情報をお届けしています。あなたの足元を彩る一足を見つけるお手伝いができれば幸いです。お気に入りの靴を見つけて、毎日の生活を足元から豊かにしてください。

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