玄関を開けた瞬間に分かる、あのにおい。消臭スプレーを吹いてその日はごまかせても、翌日また戻っている。足はちゃんと洗っているのに。
この記事は、すでに臭ってしまった靴をどうするかの話です。においの正体が分かると、なぜスプレーだけでは戻ってしまうのかも、何を買えばいいのかも、一度に整理がつきます。
先に、においの正体を
意外に思われるかもしれませんが、汗そのものはほとんど無臭です。臭っているのは汗ではありません。
足の皮膚には、もともと菌が住んでいます。表皮ブドウ球菌やコリネバクテリウムといった常在菌です。この菌が、汗と、剥がれ落ちた古い角質をエサにして分解する。そのときに作られる物質のひとつが「イソ吉草酸」で、あの独特のにおいの主犯格がこれです。実際にはアンモニアや硫黄を含む成分など、性質の違うにおいも混ざっているのですが、いちばん問題になるのはこの酸です。
つまり、においが生まれるには3つの条件が要ります。菌がいること、エサ(汗と角質)があること、そして菌が働きやすい環境、高温多湿であること。靴の中は、この3つが完璧に揃う場所です。
ここから、消臭スプレーだけでは戻ってしまう理由が見えてきます。スプレーはできてしまったにおいに働きかけるものですが、菌もエサも湿気もそのままなら、翌日また同じだけ作られる。蛇口を開けたまま床を拭いているようなものです。
ではどこを断つか。菌をゼロにすることはできませんし、汗も止められません。現実的に手が届くのは湿気です。だから対処の順番は、乾かすことが最初に来ます。そのうえで、においそのものを中和したり、靴の中の環境を整えたりする道具を足していく。今回はその4つを順に見ていきます。
まず1つだけやりたい人へ。菌の条件を消す:靴を乾かす道具
においの対処で最初にやるべきは、消臭ではなく乾燥です。順番を逆にしている人がとても多い。
一日履いた靴の中は、汗を吸って湿っています。それを下駄箱にしまうと、湿ったまま何時間も密閉されることになる。菌にとっては、これ以上ない環境が朝まで続くわけです。
道具としては、乾燥剤を入れておくものと、送風で乾かすものがあります。手軽なのは前者で、繰り返し使えるタイプなら天日に干して復活させられる。時間で確実に乾かしたいなら後者です。
ここで気をつけてほしいのが乾かし方です。革靴を直射日光に当てたり、ドライヤーの熱風を当てたりするのは避けてください。革は急に乾かすと硬くなり、ひび割れます。乾かすのは正しいのですが、熱で乾かすのは間違いです。風を通す、乾燥剤に吸わせる。この2つで十分に足ります。
そして道具を使う以前に効くことがあります。同じ靴を毎日履かないことです。一日履いたら一日休ませる。それだけで湿ったままの時間が半分になります。
靴は洗えないと諦めている人へ。においの溜まり場を交換する:中敷き
2つめは、いちばん見落とされている場所です。乾かす道具を買う前に、ここを確認したほうが早い場合すらあります。
汗を直接受け止めているのは、靴の内側ではなく中敷きです。足の裏から出た汗はまずここに染み込み、剥がれた角質もここに溜まります。つまり、菌にとってのエサ場がそのまま足の下に敷かれている。においの発生源として、ここより条件の悪い場所はありません。
だから、外せる中敷きなら定期的に外して乾かす。汚れていたら交換する。それだけで、においの量そのものが変わります。革靴は丸洗いできませんが、中敷きは替えられる。「靴が洗えないからどうしようもない」と思っている人が、実は最初にやるべきことです。
ただし革靴の場合、純正の中敷きが接着されていて外せないことが少なくありません。無理に剥がすと下地を傷めます。その場合は、いま入っているものの上に薄い中敷きを重ねる形になります。重ねるぶん容積が減るので、次に書く厚みの話がより重要になります。スニーカーなら、たいていは外せます。
買うときは、抗菌や消臭をうたったものと、活性炭を仕込んだものがあります。厚みには注意してください。厚いものを入れると靴の中の容積が減り、甲が当たったり、かかとが浮いたりします。においを直しにいって、履き心地を壊しては本末転倒です。もとの中敷きと同じくらいの厚みのものを選んでください。
安く試したい人へ。酸性のにおいを中和する:重曹
ここで化学の話が少しだけ出てきます。においの主犯格であるイソ吉草酸は、名前のとおり酸性の物質です。
そして重曹は弱いアルカリ性です。酸性のものとアルカリ性のものが出会うと中和して、揮発しにくい別の物質に変わります。重曹が靴のにおいに効くと言われるのは、香りで覆い隠しているのではなく、においの分子そのものを変えているからです。
ただし、限界も正直に書いておきます。中和という反応にはある程度の水分が要るので、乾いた粉を袋に入れて置いておくだけの場合、実際に効いているのは吸湿のほうが主です。そして相手が酸である以上、アルカリ性のアンモニア臭には原理的に効きません。万能ではなく、酸性のにおいに対して、安く、理屈の通った手を打てるということです。
使い方は簡単で、薄い布や不織布の袋、あるいは古い靴下に重曹を入れて口を縛り、靴の中に一晩置いておくだけ。翌朝取り出します。靴の中に直接ふりかける方法もありますが、あとで掃除が面倒なので、袋に入れるほうをおすすめします。
この方法の良さは、とにかく安いことと、仕組みが理屈で説明できることです。まず何か試してみたい、という段階の人にはここから。掃除用の重曹で構いません。
何をしても駄目だった人へ。靴の中の環境を変える:粉末タイプ
ここまでやって駄目だった、という段階の人が行き着くのが、この種の粉末です。よく知られているのがニュージーランド生まれのグランズレメディ。公式に載っている成分は、ミョウバン、酸化亜鉛、ウンデシレン酸亜鉛、タルク、そしてマヌカとカワカワという現地の植物から採ったオイルです。
この並びを見ると、性格がよく分かります。ミョウバンとタルクは水分を抑える側。一方でウンデシレン酸亜鉛は、抗真菌の成分として知られている物質です。つまりこの粉は、環境を整えるだけでなく、菌そのものにも働きかける設計になっている。冒頭に書いた「3つの条件」でいえば、環境と菌の両方に手を入れにいく道具です。においを香りで覆い隠す種類のものではありません。
使い方も他と違います。付属のスプーンで1杯を片足ぶん靴に入れ、軽く揺すって広げる。そして粉は捨てずに、そのまま履きます。強いにおいなら1日1回を7日から10日ほど続けてリセットし、そのあとは気になったときに足す、という使い方です。効果が半年ほど続くという説明も見かけますが、これは販売側の言い分なので、そのつもりで受け取ってください。
ひとつ、公式に注意書きがあります。傷口には使わないこと。足の皮がむけていたり、ひび割れがあったりする状態で使うものではありません。角質のケアで削りすぎた直後なども避けてください。
あとは、粉を入れたまま履くという点に最初は抵抗があるかもしれません。白い粉なので、濃い色の靴下だと少し目立つことがあります。
まとめ:消すより、作らせない
順番はこうです。まず乾かす。次に中敷きを外して乾かすか交換する。それでも残るなら重曹で中和する。そこまでやって駄目なら、粉末タイプで環境と菌の両方に手を入れる。この記事はその順に並べてあります。
まず1つだけと言われたら、乾かす道具です。においを消す道具ではないので地味に見えますが、湿気は3つの条件のなかで唯一、こちらが確実に減らせるものだからです。菌はゼロにできないし、汗も止められない。手が届くところから潰すのが、いちばん確実です。
足の側でできることも書いておきます。指のあいだまで石けんで洗うこと、そして踵や足裏の古い角質を溜めないこと。角質は菌のエサなので、ここが厚くなっているとにおいも強くなります。ただし削りすぎは逆効果で、皮膚を傷つけると別の問題を招きます。軽石でごりごりやるより、風呂上がりに保湿するほうが結果的にうまくいきます。
やってはいけないことも整理しておきます。熱で乾かさないこと。革を傷めます。それから、消臭スプレーを吹いてすぐ下駄箱にしまわないこと。湿った状態を閉じ込めることになるので、目的と逆のことをしています。スプレーを使うなら、そのあと風を通してください。
最後にひとつ。ここまでやってもにおいが引かない、皮がむける、かゆみがある、指のあいだがふやけている。こういう場合は水虫や多汗症といった、靴の外側の問題かもしれません。市販の道具で粘る前に、皮膚科で相談してください。原因が皮膚にあるなら、靴をいくら乾かしても終わりが来ません。














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