「革靴はイタリアか英国」という話が多い。でも今、そのどちらでもないポルトガルが革靴の産地として語られる機会が増えています——それには理由がある。
ポルトガル北部のフェルガイラス(Felgueiras)は「Capital do Calçado(靴の首都)」と呼ばれ、国内靴生産量の約60%を担う産地集積地です。1,200社以上の工房が職人技術を代々受け継ぎ、ポルトガル靴の平均輸出単価はイタリアに次ぐ世界第2位——PradaやChanelも同地域の工場を活用しています。「その革靴どこの?」に「ポルトガルのフェルガイラス産地から来た靴で、PradaもChanelも同じ地域の工場を使っている」という答えが返せる靴を4足紹介します。
14歳で職人の世界に入り60年かけて自分の名前を冠したブランドを作った——ポルトガルのGoodyear welt専門家:Carlos Santos 7902
Carlos Santos(カルロス・サントス)は1942年にザルコ工場として設立され、2010年にブランドとして独立しました。創業者カルロス・サントスは14歳で靴工場に入り、2002年に工場を自ら買い取るまで職人として積み上げた人物です。娘アナと息子アルマンドが引き継ぐ家族経営で、ポルトガルでも数少ないGoodyear welt専門ブランドとして輸出比率90%を誇ります。自分の名前を冠したブランドを作るまでに60年かかった靴職人の靴——という話は他にない背景です。
7902を手に取ると、イタリアンカーフの表面が「なめらかなのに弾力がある」感触があります。ハンドペイント仕上げが施されており、光の当たり方で深みのある色味が微妙に変わる——工場の職人が一足ずつ手を入れていると分かる表情です。サイドゴアブーツとしてのシルエットはすっきりしており、スラックスでもデニムでも使える守備範囲の広さがある。14歳で入り、60年をかけて自分の名前を冠した靴——これを選ぶことが「フェルガイラスの職人技術に一番近い距離で触れる」という意味だと思っています。
デザインはスウェーデン、革はフランス、縫製はポルトガル——欧州3カ国横断のチェルシーブーツ:Myrqvist Elfvik
Myrqvist(ミルクヴィスト)は2016年、スウェーデン・ストックホルムで設立されたブランドです。靴のデザインはスウェーデン、革はエルメス傘下タンナリー(Tannerie du Puy、フランス)のフルグレインカーフ、縫製はポルトガル北部の工場——「欧州3カ国横断の革靴」という構造を持っています。フランスの革をポルトガルの職人が縫う、という組み合わせが成立するのは、フェルガイラス産地が国際的なブランドから選ばれ続けてきた信頼の結果です。
Elfvikを足に入れると、フルグレインカーフの柔軟性が「革が足に沿って動いている」感触を最初から出してくる。「このチェルシーブーツ、デザインはスウェーデンのブランドで、革はエルメス系のフランスのタンナリー、縫製はポルトガル北部の職人」——この一文が言える靴は他にそうない。Goodyear weltとBlake stitch両方対応の仕様で、好みの製法を選べます。「どこで作ったか」の話が3カ国にわたる靴を探している人に向いています。
英国ブランドがポルトガルを選ぶ理由が一足に凝縮されている——1989年ロンドン発のレザーブーツ:Oliver Sweeney WALBERSWICK
Oliver Sweeney(オリバー・スウィーニー)は1989年、ロンドンで創業した英国ブランドです。「Made in Portugal」コレクションをラインアップの主力に位置づけており、フルグレインレザー+Goodyear welt製法で製造しています。英国ブランドがなぜポルトガルで作るのか——答えは「EU内で最もコストパフォーマンスが高い高品質産地であること」と、「Goodyear welt製法の職人技術がフェルガイラスに集積していること」の2点です。
WALBERSWICKはウィングチップの穴飾りが光の角度で表情を変える革靴で、英国的なシルエットをポルトガルの職人が仕上げています。「このブーツ、ロンドンのブランドだけどポルトガルで作っていて、PradaもChanelも使う同じ産地から来てる」という一言が返せる。革のなじみ方はGoodyear welt製法特有の「ウェルトがしっかり靴底を固定している」感触で、長く使うほど足への収まりが良くなっていく——英国で設計し、ポルトガルで仕上げる、という二重の語れる背景を一足に持てます。
コレクション名に「Portugal」を冠するほど産地への敬意を前面に出す英国ブランド:Walk London Highbury Derby
Walk London(ウォーク・ロンドン)は英国ブランドで、専用の「Portugal Collection」を展開しています。コレクション名に産地名を冠するというのは珍しい判断で、「ポルトガルの工房技術を全面に出すこと」自体をブランドのメッセージとして打ち出しています。Highbury Derbyはポルトガルの熟練職人によるハンドクラフトで作られたダービーシューズで、クラシックな英国シルエットとポルトガル産地の職人技術が組み合わさっています。
ブランドがコレクション名に産地を入れるという行動は「自分たちがどこで作っているかを隠さない」という姿勢の表れで、今回の4足の中で一番「産地への信頼を言葉にしているブランド」です。Highbury Derbyはダービーシューズとしての丸みのある前足部が「履いていて疲れにくい形」をしていて、革の表面に出た落ち着いた艶が主張しすぎない——実際に歩くことを前提にしたポルトガル職人の設計が、見た目ではなく機能として現れています。「Portugal Collection」という名前を冠した靴を毎日使うことが、一番さりげなく産地の話ができる選び方だと思っています。
まとめ:ポルトガル・フェルガイラスという答えが返せる革靴4足
4足を並べると、ポルトガル職人の名前を冠したGoodyear welt専門家(Carlos Santos)・欧州3カ国横断の構造(Myrqvist)・英国ブランドがポルトガルを選ぶ理由(Oliver Sweeney)・産地名をコレクション名にした英国ブランド(Walk London)——全員フェルガイラスと縁を持ちながら、語れる背景の切り口がそれぞれ違います。
「革靴はイタリアか英国」という選び方に一つ軸を加えるなら、ポルトガルという産地の話ができる靴を持つことだと思っています。一足目を選ぶならCarlos Santosから入るのが一番産地との距離が近い——「14歳で職人の世界に入り60年かけて自分の名前を冠したブランドを作った男が、ポルトガルのフェルガイラスで今も靴を作っている」という話は、他の3足にはない「人の名前がそのままブランド名になった職人の靴」という語れる背景があるから。














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