靴底の厚みが、麻でできている。編んで縫うエスパドリーユ4ブランド

夏の靴が難しいのは、涼しさと歩きやすさが両立しないからです。サンダルは涼しいけれど、指で引っかけているだけなので長くは歩けない。スニーカーはきちんと歩けるけれど、中が蒸れる。

その隙間に、変わった履物があります。靴底の厚みが、ゴムでも革でもなく、編んだ麻でできている靴です。

目次

先に、この靴の底がどうなっているかを

エスパドリーユの底は、ジュートという麻の繊維です。それを縄のように編んで、渦を巻くように積み上げて、靴の厚みを作っている。上に乗るのは綿やリネンの布や革です。

そしてその麻の底と上の部分は、縫い合わせてあります。手仕事のブランドでは、1足に200針近い手縫いが入ることもある。編んだ麻に針を通して留めていく作業です。

ひとつ、よくある誤解を先に正しておきます。「エスパドリーユは底が布だから、そのまま地面を歩いている」と思われがちですが、いま売られているものはたいてい、麻の層の下に薄いゴムがあります。加硫で天然ゴムの層を足しているものもあれば、麻そのものにゴムを染み込ませているものもある。作り方はブランドによって違いますが、接地面に何らかのゴムがあるのは現代のエスパドリーユではむしろ標準です。

大事なのは、厚みを何で作っているかです。ふつうの靴はゴムや革の塊で高さを出します。エスパドリーユはそこを編んだ麻でやっている。この違いから、良いことも悪いことも決まります。

良いのは軽さです。ゴムの塊を足の下に置いていないので、履いていることを忘れます。そして通気。厚みの部分が繊維の集まりなので、密閉されません。夏に素足で履いても中が蒸れにくいのは、この作りのおかげです。

悪いのは水です。底のゴムは接地面を守るものであって、側面から見える麻の層は露出しています。麻は水を吸うので、濡れると重くなり、乾くまで形が崩れやすく、繰り返すとほつれてくる。雨の日に履く靴ではありません。ここを分かったうえで選べば、失敗しません。

今回は4つ紹介します。麻とゴムの組み合わせ方が、それぞれ違うところも見てください。

手縫いの本物を一足持ちたい人へ。1足に200針:Toni Pons

Toni Pons
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スペインのToni Pons(トニーポンズ)は、1946年に始まった工房です。もうすぐ80年になります。素材はジュートと綿とリネン。ずっと同じものを作ってきた会社です。

数字がひとつ、この靴の性格をよく表しています。1足を仕上げるのに、最大で200針の手縫いが入る。編んだ麻の底に、職人が針を通して布を留めていく作業です。世代から世代へ受け継がれてきた手順で作られている、と公式が書いています。

いまは90を超える国で扱われていて、手作りのエスパドリーユとしては世界でいちばん選ばれているブランドだと公式が書いています。

そして日本での買いやすさも、この4つではいちばんです。セレクトショップの取り扱いがあり、通販でも普通に見つかります。エスパドリーユを一度も履いたことがない人が、まず現物を確かめるという意味でも入りやすい。

メンズとレディースの両方があり、平たいものからウェッジソールまで幅があります。まず一足という人は、シンプルな平底から入ってください。

手縫いの技法に名前がある靴が欲しい人へ。兄弟が始めた家族経営:Kanna

Kanna(カンナ)は1985年から続くスペインのブランドです。始めたのはデ・ラ・セルダ兄弟。いまも家族で経営しています。

工房があるのは、ムルシア州のカラバカ・デ・ラ・クルスという町の、ラ・エンカルナシオンという集落です。ムルシアというと地中海のイメージがありますが、ここは内陸。バルセロナでもマドリードでもない場所に工房がある、というのはこの分野ではよくあることです。エスパドリーユはもともと農民や労働者の履物で、大きな街ではなく地方で作られてきました。

このブランドで見るべきは、手縫いの技法に名前がついていることです。「プント・オハル」、日本語でいうボタンホールステッチ。革とジュートの底を、この地域に伝わるやり方で接ぎ合わせます。そして底には、加硫によって天然ゴムの層が足される。麻を編んで、手で縫って、ゴムを焼き付ける。工程がひとつずつ説明できる作りです。

顔つきは4つのなかでいちばん今っぽく、街で履いても浮きません。ただし展開はレディースが中心なので、メンズを探している人は先に取り扱いを確認してください。日本での流通も、この4つではいちばん細い部類です。

誰がどこで編んだかを知りたい人へ。バルセロナの会社、ラ・リオハの手:Viscata

Viscata(ビスカータ)はバルセロナで生まれたブランドです。ただし、靴が作られているのはバルセロナではありません。

生産はラ・リオハで行われています。ワインの産地として知られる、スペイン北部の内陸の州です。この会社は、そこの地域の人たちと一緒に作っていることを公式に前面へ出しています。ブランドの住所と、実際に手が動いている場所が違う。そして後者のほうを見せている、という構えです。

エスパドリーユという履物を考えると、この姿勢は理にかなっています。麻を編んで縫うという作業は機械では置き換えにくく、結局のところ誰かの手が動いています。その手がどこにあるのかを言うかどうかで、同じ値段の靴でも意味が変わります。

キャンバス地の定番から革を使ったものまで揃っていて、価格帯も現実的です。日本からも通販で買いやすく、この4つでは手を出しやすいほうに入ります。作られた場所がはっきりしている一足が欲しい人に向きます。

濡れるのが心配な人へ。麻そのものにゴムを含ませた:espadrij l’originale

最初に書いた弱点、水に弱いという問題への向き合い方が、この4つでいちばん明快なブランドです。

espadrij l’originale(エスパドリ・ロリジナル)は、2009年にドイツのデュッセルドルフで立ち上げられました。日本の取扱店では「エスパドリーユ・オリジナル」と表記されることもあります。ただし作っている場所はドイツではありません。フランスのピレネーの工房で、手作業か昔ながらの機械を使って作られています。2012年からは、レディースの生産をスペインの工房でも行うようになりました。ブランドはドイツ、手はフランスとスペイン、という構えです。

そして肝心の底です。前置きで書いたとおり、いまのエスパドリーユにはたいていゴムがあります。ただしここは入れ方が違う。ゴムの層を下に貼るのではなく、100パーセント天然のジュートで編んだ底そのものに、撥水性のある天然ゴムをコーティングしていると公式に書かれています。麻の見た目と通気を残したまま、繊維の側に水を弾く性質を持たせた、ということです。

これで雨の日も平気になる、という話ではありません。麻であることに変わりはないので、水たまりを歩けば同じことになります。ただ、朝の露で湿った草の上や、急に降られたときの数分に対しては強い。エスパドリーユを一足だけ持つなら、この保険は効きます。

まとめ:麻で厚みを作った靴だと分かって履く

選び方の目安はこうです。手縫いの本物ならToni Pons。地域の技法で作られた一足ならKanna。作られた場所がはっきりしているものならViscata。濡れるのが心配ならespadrij l’originale。

最初の一足には、Toni Ponsをおすすめします。1946年から同じものを作っていて、200針という数字がそのまま作りの説明になっている。しかも日本でいちばん手に入りやすい。エスパドリーユという履物がどういうものかを、素直に体験できます。そのうえで、雨が気になるならespadrij、作られた場所で選ぶならViscata、と足していくのが自然な順番です。Kannaはレディース中心で流通も細いので、気に入った一足を見つけたときに買う、くらいの構えがちょうどいい。

履くときの注意を3つ。まず、素足で履く前提の靴です。だから汗を吸って、そのぶん傷みます。連日履かないこと。一日履いたら休ませて乾かす、というのはほかの靴と同じですが、この靴では寿命に直結します。

次にサイズです。この種の靴は履いているうちに、上のキャンバスや革が伸びて足に沿ってきます。だから最初にゆるいものを選ぶと、あとで大きくなりすぎる。少しきついかな、くらいで選ぶのが正解です。ただし伸びるのは上だけで、編んだ麻の底は伸びません。幅が根本的に足りない場合は、履いているうちに広がるという期待をしないでください。かかとが浅いつくりなので、大きいと脱げます。

そして底の減り方。接地面のゴムが先に減り、そこが破れると中の麻が地面に触れはじめます。そうなると一気にほぐれます。かかとの外側から減っていくはずなので、時々ひっくり返して見てください。ゴムのうちに気づけば、修理店で貼り直して延命できる場合があります。麻の層まで擦り切れてからでは、直しようがありません。

最後にひとつ。この靴は、履き潰す前提で作られています。もともと農民や労働者の履物で、安く作って、傷んだら替えるものでした。何年も大事に履く革靴とは、時間の流れが違う。手縫いのいいものを買っても、数シーズンで役目を終えます。それを惜しいと思うか、季節の道具として納得できるか。そこが合う人には、夏の足元でこれ以上のものはありません。

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この記事を書いた人

日常の靴選びから仕事に合わせた靴選びなど、さまざまな靴に関する情報をお届けしています。あなたの足元を彩る一足を見つけるお手伝いができれば幸いです。お気に入りの靴を見つけて、毎日の生活を足元から豊かにしてください。

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