親指の付け根が外に出っ張ってきた。靴を履くと、そこが当たって痛い。それで次に買う靴を探すとき、多くの人が「幅の広いもの」を選びます。
気持ちはよく分かります。当たっているのだから、当たらないように広げればいい。ところが、専門機関の書いていることを読んでいくと、この選び方は半分だけ合っていて、半分は逆をやっていることが見えてきます。
先に断っておきます。この記事は靴選びの話で、治療の話ではありません。靴で外反母趾が治る、変形が戻るという話は書きません。痛みや変形が進んでいる場合は、整形外科で診てもらうのがいちばん確実です。受診の目安については、最後のほうで専門機関の書き方をそのまま紹介します。
先に、「幅広を買う」がなぜ逆になるのかを
日本整形外科学会の説明では、外反母趾のいちばんの原因は靴を履くことだとされています。幅の狭い、つま先が細くなった靴を履くと、母指のつけ根から先が圧迫されて変形する。中年期になると、履物に加えて肥満と筋力低下も関わってくるとされています。
ここまで読むと「では広い靴を」となります。ところが同じ学会が、保存療法として挙げている履物の条件は、こう書かれています。
「母指のつけ根はフィットして先はゆったりとした履物を選ぶ」。
読み飛ばしそうになりますが、これは一足の中で、前と後ろで求めるものが逆だと言っています。つけ根は締める。その先はあける。「幅広」と書かれた靴は、たいてい全体をまとめて広げるので、本来締めておきたいつけ根まで一緒に緩んでしまいます。
広すぎる靴の害についても、はっきり書かれているものがあります。東京都の福祉情報サイト「福ナビ」の靴選びの解説です。書いているのは、東京都の補装具研究所などで30年以上、足と靴の相談にあたってきた専門家です。
そこにはこうあります。靴幅は狭すぎるのがよくないのはもちろんだが、逆に広すぎるのも横ぶれを起こし、さまざまな症状の原因になる。さらに幅広の靴は、足の甲がしっかり固定されているものであることが大切だと。
もうひとつ、こんな記述もあります。足の指の関節が山形に変形する「ハンマートゥ」は、サイズが小さすぎる場合だけでなく、靴幅が広すぎて、足の指が靴底を吸いつけようとすることからも起こると考えられている。広い靴の中で足が泳ぐと、指は無意識に踏ん張るわけです。
そして原因についても、学会とは別の角度から書かれています。外反母趾は、開張足や扁平足から起こることが多いと考えられている。開張足というのは、足の前のほうが指の方向へ扇状に開き、横のアーチが落ちた状態のことです。
これが効いてきます。外反母趾は「親指だけの問題」ではなく、足の前半分が横に広がった結果として出てきている可能性がある。だとすれば、その広がった足に合わせて靴をさらに広げるのは、方向としては同じ側を押していることになります。
整理すると、見るところは4つです。つけ根が締まるか。その先にゆとりがあるか。足の裏を支えられるか。そして当たる部分がどうなっているか。順に見ていきます。
なお、小指側が内に倒れてくる「内反小趾」については、別の記事で扱いました。あちらは靴の形そのものを疑う話でしたが、親指のほうは原因の見方が少し違います。
まずここから。つけ根を締められるか:甲を留められる靴
4つのうち、最初に確かめてほしいのがここです。甲を締められるかどうか。
理由は2つあります。ひとつは、さっきの「つけ根はフィットして」を、靴のどこで作るのかという話。指の付け根の幅そのものを締め上げることはできないので、甲を留めることで、足が前に滑るのを止める。足が前へずれると、いちばん出っ張っている親指の付け根が、靴のいちばん狭くなる位置に押し込まれます。当たっている原因が、幅ではなく前後のずれであることは珍しくありません。
もうひとつが、幅にゆとりのある靴を選ぶときの条件です。幅広の靴は、甲がしっかり固定されているものであることが大切だと書かれているのは、広げたぶんの横ぶれを甲で止めるためです。逆に言えば、甲が留まらない幅広の靴は、いちばん避けたい組み合わせということになります。
具体的には、面ファスナーのストラップ、紐、または甲のベルト。パンプスなら、甲にストラップのあるタイプ。脱ぎ履きのしやすさだけで選ぶと、ここが真っ先に落ちます。足を入れるだけで履けるものは、たいてい甲を留める仕掛けを持っていません。
とはいえ、職場でパンプスを指定されている人もいます。ストラップのない一足しか選べないなら、あとから留める手があります。甲にかけるシューズバンド。甲の内側に入れて高さを埋めるパッド。そして、足が前へ滑るのを止める前滑り防止の中敷き。どれも、やっていることは同じです。足を靴の後ろ側に留めて、つけ根がいちばん狭い位置に入り込まないようにする。おしゃれを一段あきらめる前に、こちらを試す余地があります。
その先はあける。先細りでないこと:つま先が丸い靴
つけ根を締めたら、その先はあけます。ここが「ゆったり」の担当です。
条件は、先端の形が先細りになっていないこと。学会も福ナビも、そろってこれを挙げています。とがった靴は、いちばん長い指に合わせると付け根がきつくなり、付け根に合わせるとつま先が余る。どちらにしても、どこかが当たります。
そのうえで、福ナビにはもう一歩踏み込んだ記述があります。つま先の形状が丸みを帯びた「オブリークカット」になっているものが、外反母趾の場合に適している。
オブリークというのは「斜め」という意味です。人の足の指は、親指がいちばん長く、小指へ向かって斜めに短くなっていきます。その斜めの線に沿ってつま先を切った形が、オブリークカット。左右対称のたまご型ではなく、親指側が前に出た、少し傾いた丸みです。
店でひっくり返して底を見ると分かりやすい。底の先端のいちばん出っ張っている点が、真ん中ではなく親指寄りにあるかどうか。ここが真ん中に来ているのは、左右対称のたまご型です。
誤解のないように順番をつけておきます。いちばん避けたいのが先細り。たまご型はそれよりずっとまし。そのうえで、より適しているとされるのがオブリークです。オブリークと明記して売られている靴はまだ多くないので、まずは「先がとがっていないもの」を基準にして、そのなかで底の頂点が親指寄りのものを探す、という順で見てください。たまご型を全部除外する必要はありません。
足の裏のほうへ。広がったアーチを支える:横アーチのパッド
ここからは靴ではなく、足の裏の話になります。
外反母趾が開張足や扁平足から起こることが多いとされているなら、対策の一部は落ちた横のアーチのほうにあることになります。福ナビでも、開張足や扁平足のときは靴の中で横・縦のアーチを補正することが大切だとされ、その方法として、中底の必要な位置にパッドを取り付けるか、すでにアーチに合った補正のされた中敷きを入れる、と書かれています。
開張足の見分け方をひとつ。この状態になると、足の裏の、人差し指と中指の付け根のあたりにタコができやすくなるとされています。本来なら親指の付け根とかかとで受けるはずの体重が、真ん中に乗ってしまうからです。心当たりがあれば、横アーチのほうを疑ってみてください。
ただし正直に書いておきます。中敷きは足の形を作り変える道具ではありません。できるのは、支えて、負担を散らすことまで。ここを勘違いすると、効かないと言って捨てることになります。中敷きの選び方そのものは、別の記事で細かく書きました。
貼る位置にも気をつけてください。場所を外すと、かえって当たる場所が増えます。どこに入れればいいか分からないなら、自分でパッドを貼るより、はじめからアーチの補正がされた中敷きを入れるほうが安全です。
そしてもうひとつ。パッドを1枚入れると、靴の中の容積はそのぶん減ります。ぎりぎりの靴に入れると、今度はきつくなる。入れることを前提にするなら、靴のほうも少し余裕を見ておいてください。
なおこれは、最初の話から外れた別の対策ではありません。横に広がった前足部を下から支えられれば、つけ根そのものが締まる方向に働きます。甲を留めるのと同じ「つけ根をフィットさせる」仕事を、足の裏の側からやっている、と考えてください。
それでも当たる人へ。当たる場所だけ逃がす:伸縮素材の靴
形も甲も合っているのに、出っ張った一点だけが当たる。この段階まで来ている人には、素材で逃がすという手があります。
福ナビにはこう書かれています。足の指の関節が当たる部分が伸縮素材になっていると、圧迫されずに楽。靴全体を大きくするのではなく、当たる一点だけがよけてくれる、という考え方です。
これがなぜ大事なのかというと、ここまでの3つを守ったまま、当たりだけを解決できるからです。つけ根は締まっている。先はあいている。アーチは支えている。そのうえで一点だけ逃がす。「痛いからワンサイズ上げる」をやると、せっかく作った3つが全部ほどけます。
もうひとつの道が、修理店の「幅出し」です。いま履いている靴の、当たる一点だけを部分的に伸ばしてもらう方法があります。天然の革であればできることが多く、布やエナメル、爬虫類の革は扱えない場合があります。気に入っている一足があるなら、買い替える前に相談してみる価値はあります。
ヒールのことと、病院に行く目安
最後に、靴選びから少しはみ出す話を3つ。
ひとつめ、ヒールの高さです。福ナビは外反母趾の靴の条件として、先細りでないことと並べてヒールが高くないものを挙げています。かかとが高いほど、体重が前へ移って、いちばん出っ張っているところに乗ります。高さをゼロにしろという話ではありませんが、毎日の一足を選ぶときに効く条件です。
ふたつめ、幅は立った状態で測ること。福ナビは、靴幅は足の指の付け根に相当する位置の幅で、立った状態の足幅寸法に合っているものを選ぶとしています。座って測った幅で選ぶと、実際に体重が乗ったときには足りません。逆に、その実測を超えて広い靴を選ぶ理由も、ここにはありません。
家で測れるので、書いておきます。紙の上に立って、かかとといちばん長い指の先に印をつければ足長。メジャーを、親指と小指の付け根のいちばん出ているところに回して一周させれば足囲です。両足とも、立って、体重をかけた状態で。左右で違うのがふつうなので、大きいほうに合わせます。測るのは足がむくみがちな夕方がいい。
日本の靴のサイズは、この足長と足囲の組み合わせで決まっています。EやEEといった表示は、この足囲のほうの記号です。何十年も前に覚えた数字のまま買っている人が、いちばん多い。外反母趾で足の形が変わってきているなら、まず測り直すところからです。
三つめが、病院のことです。学会の説明には、はっきりした線が書かれています。痛みが強く、靴を履いての歩行がつらくなると手術をする。そして靴を脱いでも常時痛むようになると、手術が必要になると。
ここで読み違えないでほしいのですが、これは手術をするかどうかの線であって、受診するかどうかの線ではありません。脱げば痛みが引く段階でも、診てもらう価値はあります。保存療法として挙げられている装具や体操は、本来医師に診てもらったうえで選ぶものだからです。靴でやれることが残っている、は、病院に行かなくていい、という意味ではありません。
そのうえで、靴の話を後回しにして先に受診してほしい場合があります。急に出っ張ってきた。赤く腫れて熱を持っている。足の指以外の関節も痛む。じっとしていても痛む。こういうときは、外反母趾ではない別の原因のことがあります。靴を替えて様子を見る、がいちばん危ない場面です。
それから、糖尿病で足の感覚が鈍っている方は、扱いが別になります。傷ができていても気づきにくいので、当たる靴を我慢して履くことが危険につながります。歩いたあとに足の指や爪、かかと、足の裏を確認すること。この場合は自分で靴を選ぶ前に、主治医に相談してください。
まとめ:一足の中で、前と後ろで求めるものが逆になる
見るところを並べ直します。甲を留められるか。つま先が先細りでなく、できれば斜めの丸みか。足の裏のアーチを支えられるか。当たる一点を逃がせるか。
まず1つだけと言われたら、甲を留められるかです。お金をかけずに今日試せることもあります。いま履いている靴に紐やストラップがあるなら、一度しっかり締めて歩いてみてください。当たり方が変わるなら、原因は幅ではなく前後のずれです。
そして覚えて帰ってほしいのは、この一行です。つけ根はフィットして、先はゆったり。専門機関が書いているのはこれで、一足の中で、前と後ろで求めるものが逆になっています。「幅広」という言葉は、その2つをまとめて一方向に動かしてしまう。だから、棚で幅広の表示を見つけたときは、その靴が甲を留められるかどうかを続けて確かめてください。留められないなら、その一足は見送っていいと思います。
当たらない靴で一日を終えられると、夜の機嫌が変わります。まずはそこからで十分だと思います。














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