店で試着して、サイズは合っているのに小指と甲が当たる。仕方なくワンサイズ上げたら、今度はかかとが浮く。幅広や甲高の人なら、一度は経験があるのではないでしょうか。
これ、足が特殊なわけではありません。原因は木型です。靴はサイズだけでなく、足の形を写した木型に沿って作られます。欧米ブランドの多くは欧米人の足を基準に木型を起こしているので、日本人に多い「幅が広く甲が高い」形とは、そもそも設計が違う。合わなくて当たり前なんです。
では日本人の足を測り続けてきたメーカーはどこか。前半2足は福岡県久留米市、地下足袋から始まった土地の靴を。後半2足は久留米の外から、幅を出しても野暮ったくならない作りの靴を紹介します。
甲が当たって痛い人へ。1873年の足袋屋から続く木型:ムーンスター 810s STUDEN
ムーンスターは1873年、倉田雲平が久留米で「つちやたび店」として創業しました。足袋屋です。そこから1922年にゴム底の地下足袋を商品化し、1925年にはスニーカーとゴム長靴へ広がっていきます。出発点が、日本人が日本で履くための履物だった。足の形を測る蓄積が150年分ある、というのはそういう意味です。
810s(エイトテンス)は、かつての校庭用グラウンドシューズを現代の形に起こし直したラインです。STUDENの幅は3E相当。紐を締めても甲の一点に食い込まず、それでいてかかとは緩みません。幅広向けの靴にありがちな「全体を大きくして幅を稼ぐ」作りとは違います。サイズは普段どおりで問題ないことが多いので、まずジャストから試してみてください。
毎日長く歩く人へ。ブリヂストンを生んだ足袋会社:アサヒシューズ 快歩主義
アサヒシューズの前身は、1918年に石橋正二郎が設立した日本足袋という会社です。ここが地下足袋づくりで培ったゴム技術をタイヤに応用し、1931年にタイヤ部門を分離独立させました。それがブリヂストンです。世界的なタイヤメーカーは、久留米の足袋会社から分かれて生まれた。同じ町の別会社ではなく、親子の関係にあります。
快歩主義は歩くことに特化したシリーズで、ラインによって3Eと4Eが選べます。幅で困っているなら4Eの表記があるモデルを選んでください。つま先が少し反り上がっていて歩き出しでつまずきにくく、中敷きは外せるので手持ちのインソールに入れ替えられます。介護靴のような見た目のものもありますが、普通のスニーカー顔をしたモデルも同じシリーズにあるので、そちらから見るのがおすすめです。
幅は欲しいが野暮ったくしたくない人へ。広島の職人が釜で作る一足:SPINGLE MOVE SPM-110
ここから久留米を離れます。幅広向けの靴は、どうしても丸く大きく見えがちです。そこが嫌で敬遠してきた人に向くのがSPINGLE MOVE(スピングルムーヴ)。広島県府中市のメーカーで、ソールとアッパーを釜で熱して圧着するバルカナイズ製法を続けています。手間がかかるぶん、ソールが薄くしなやかに仕上がります。
SPM-110は定番のローカット。アッパーの革が最初から柔らかく、甲の高さに合わせて伸びてくれます。だから「幅で選んだのに見た目が重たい」という状態になりません。履き込むと甲の折れる位置に自然としわが入り、そこが自分の足の記録になっていきます。革が馴染む前提の靴なので、大きめを買うと後で緩みます。試着でややきついくらいを選ぶのが正解です。
夕方に足がむくむ人へ。大阪発、体重の移動を助けるソール:リゲッタカヌー
幅の悩みは、夕方になると別の顔を見せます。むくんで朝より足が大きくなり、朝ちょうどよかった靴がきつくなる。ここに効くのがリゲッタ(大阪)のリゲッタカヌーです。
特徴はソールが前後にゆるくカーブしていること。体重が自然に前へ転がるので、足を持ち上げる力が少なくて済みます。加えて甲を覆う面積が広く、幅が出ても一点で締めつけずに支えてくれる。サンダル型からスニーカー型まで形が複数あるラインなので、まずは通年で履けるスニーカー型から見るのが分かりやすいと思います。むくみを見込んで、夕方の足で試着するのがおすすめです。
まとめ:幅で悩んできた人が、次に試すべき4足
選び方の目安はこうです。甲の当たりが一番つらいならムーンスター 810s。毎日たくさん歩くならアサヒシューズ 快歩主義の4Eモデル。幅は欲しいけれど見た目も譲れないならSPINGLE MOVE。夕方のむくみに悩まされているならリゲッタカヌー。
最初の一足には、ムーンスター 810s STUDENをおすすめします。幅と甲のどちらにも効いて、価格も構えずに試せる。それに、履いている理由を人に話せます。「これ、久留米の足袋屋から始まった会社の靴なんだよ」。同じ町の足袋会社からブリヂストンが分かれた話まで、そのまま繋がります。
もうひとつ。靴を買う前に、一度足のサイズを測り直してみてください。幅は年齢とともに変わります。合わない原因が足の形ではなく、記憶しているサイズのほうにあることは、案外よくある話です。














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