海に行くたびに買って、一夏で鼻緒が抜けて、そのまま捨てる。ビーチサンダルをそういう消耗品だと思っている人は多いと思います。
ところがこの履物、たどっていくと日本の草履に行き着きます。しかも「ビーチサンダル」という言葉そのものが和製英語です。世界中の浜辺で履かれているものの出発点が日本にあった、という話を先に書いてから、長く履ける4足を紹介します。
先に、この履物がどこから来たのかを
原型が生まれたのは1952年、日本です。戦後の復興支援で来日していたアメリカ人の工業デザイナー、レイ・パスティンが着目したのが草履でした。これなら浜辺で履いても蒸れないし、砂を払い落としやすく、脱ぎ履きも楽だと考えたのです。
ところが、草履や下駄の会社に持ち込んでも門前払いが続きました。引き受けたのは内外ゴムという神戸の会社です。ここが独立気泡のスポンジゴムを開発していたことが決め手でした。技術者の生田庄太郎とパスティンが組んで、クッション性のある底とゴムの鼻緒を持つ履物ができあがります。神戸市の記録では、1950年代に長田区の菅原通にあったゴム会社が「ゴムサンダル」を作ったのが始まりだとされています。
もうひとつ、あまり知られていない事実があります。ゴム製の草履自体は戦前からありました。明治の終わりから昭和の初めにかけて日本で普及し、ハワイの日系移民に向けて輸出もされていたのです。つまりこの履物は、日本からハワイへ渡り、また日本で作り直され、そこから世界に散った。今回の4つは、その散らばった先です。
ハワイ製の一足が欲しい人へ。草履を左右に分けた日系移民:Island Slipper
1946年、ホノルルのカカアコ地区に小さな工場が開きました。始めたのは日系移民の元永瀧三とミサオの夫妻で、馬場家と組んでの創業です。日本の草履を下敷きにした履物を作りはじめました。
戦後すぐで物資がありません。底に使ったのは古タイヤでした。捨てられたタイヤを切り出して、履物の底にしていたわけです。
そして、この会社のいちばん大きな仕事がここです。瀧三は、左右で形の違うスリッパを設計しました。日本の草履は左右対称で、どちらの足に履いてもいい長方形に近い形をしています。それを左足用と右足用に分けた。言われてみれば当たり前のことですが、草履という前提を疑わないと出てこない発想です。いま私たちが履いているビーチサンダルに左右があるのは、ここから始まっています。
工場はのちにパールシティへ移り、いまもそこで職人が手作業で作っています。ハワイ生まれの履物ブランドで、ハワイでの生産を続けている最後の一社です。
選ぶときは素材で分かれます。ラバーは水に強く海向き。スエードや革の型は水に弱いかわりに、短パンにもきれいめの服にも合う顔つきで、ビーチサンダルという言葉から想像する見た目とはかなり違います。海で使うのか街で履くのかを先に決めてから、素材を選んでください。サイズは米国表記です。
藁を編んだ底の名残りを履きたい人へ。ブラジルへ渡った草履:Havaianas
1962年、ブラジル。ここでも草履が下敷きになりました。布の鼻緒と、藁を編んだ底。その構造をそのまま受け取って、藁の部分をブラジル産のゴムに置き換えたのがHavaianas(ハワイアナス)です。
面白いのは底の模様です。この靴の底には、米粒のような細かい模様が入っています。あれは装飾ではなく、藁を編んだ草履の表面を写したものです。素材はゴムに変わっても、編み目の記憶だけが模様として残った。手に取ったら底をひっくり返してみてください。地球の反対側に渡った草履の痕跡が、そこにあります。
実用面では、色の選択肢が圧倒的に多いことと、手に入れやすいことが利点です。この4つのなかではいちばん気軽に買えます。原型に近い形を、いちばん手軽に履けるという言い方もできます。
ひとつだけ注意を。このブランドはブラジルのサイズ表記なので、「39/40」のように数字が2つ並んだ書き方をします。日本のセンチ表記とは対応が違うので、感覚で選ぶと確実に外します。買う前に換算の案内を確認してください。
一夏で捨てたくない人へ。ゴムの層を貼り重ねる:Rainbow Sandals
安いビーチサンダルが壊れるのは、たいてい鼻緒の付け根です。底に開いた穴に鼻緒を差し込んで留めているだけなので、そこから抜けます。一度抜けると直りません。
Rainbow Sandalsは、その部分に別の答えを出した会社です。始まりは1972年、ジェイ・ロングレーがカリフォルニアのラグナビーチにある自宅のガレージで作りはじめたところから。ミシンとゴムを買う元手はわずかで、そこから世界一のサンダルを作ると言って始めた、という話が残っています。1974年にサンクレメンテへ移り、そこで正式に会社になりました。
作りはこうです。ゴムの層を重ね、専用に配合した接着剤で貼り合わせ、鼻緒もその層のあいだで固定する。差し込んで留めるのではなく、挟んで接着するわけです。公式がこの部分に添えている一言が端的で、壊れたサンダルがもう浜辺に散らからないように、と書いてあります。抜ける前提の構造をやめた、と考えると分かりやすい。
もうひとつ、創業者は密度の違うスポンジゴムを自分で配合しています。公式はこれを「記憶」を持たせたゴムと表現していて、履いているうちに自分の足の形にへこみ、そのまま沈み込みが残ります。新品がいちばんいい状態ではなく、履くほど自分の形になっていく履物です。裏を返せば、買った直後は硬く感じます。そこで「合わない」と判断しないでください。層の数が違うものがあるので、厚みの好みで選べます。
発祥の国の作りで履きたい人へ。震災で途絶えた技術を継いだ:九十九
最後は、話が始まった場所に戻ります。神戸です。
1950年代に長田区でゴムサンダルが生まれてから、この町はビーチサンダルの産地になりました。ゴム産業の集まる場所だったからです。ところがレジャーの流行が変わり、人件費が上がって生産が海外へ移っていき、1995年の阪神・淡路大震災のあと、この土地での製造は途絶えました。発祥の地から、発祥の産業が消えたわけです。
九十九(つくも)は、その技法を継ぐために2013年に立ち上げられたブランドです。代表の中島宏之が地元の職人を集め、約20年ぶりに国内生産を復活させました。神戸市は現在、国産のビーチサンダルを常時製造販売している唯一の会社だと紹介しています。老舗ではなく、途絶えたものを継ぎ直した新しい会社だという点は、正確に書いておきます。
名前の由来も、この記事の締めくくりにふさわしい。長く使い続けた道具に宿るという、付喪神から取られています。一夏で捨てる履物の対極にある名前です。
まとめ:一夏で捨てる前提をやめると、選び方が変わる
選び方の目安はこうです。ハワイ製で見た目にも上等な一足ならIsland Slipper。気軽に何色も持ちたいならHavaianas。一足を何年も履きたいならRainbow Sandals。日本製にこだわるなら九十九。
最初の一足には、Rainbow Sandalsをおすすめします。安いビーチサンダルで困るのは鼻緒が抜けることで、そこに構造で答えているのがこのブランドだからです。しかも履くほど足の形に沈む。一夏で捨てるという前提を、いちばん分かりやすく崩してくれます。厚みで迷ったら、層の薄いほうが軽く、厚いほうが硬い地面に強い、という順で考えてください。
選ぶときに見るところを3つ。まず鼻緒の留め方です。底に穴を開けて差し込んであるだけのものは、そこから抜けます。裏を見て、留め具の頭が見えていたら差し込み式です。次に底の厚みと硬さ。薄すぎると砂利や熱いアスファルトが響きます。長く歩く予定があるなら、ある程度の厚みがあるものを選んでください。
そしてサイズです。かかとが底からはみ出す状態は、見た目の問題ではなく危険です。段差でつまずきます。逆に大きすぎると足が中で滑って、鼻緒と指の股が擦れる。ここが痛くなる人はたいていサイズが合っていません。つま先とかかとに少しだけ余裕がある、くらいが目安です。
最後にひとつだけ注意を。ビーチサンダルは長距離を歩くための履物ではありません。指で挟んで引っかけているだけなので、脱げないように指に力が入り続けます。旅行先で一日中これで歩くと、足の裏も指も疲れます。海と水辺と近所のためのもの、と割り切ったうえで、いいものを一足持つ。その使い方がいちばん気持ちいいと思います。














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