英国の革靴を選ぶとき、「Church’s」や「John Lobb」という名前は出てくるけれど、その先にある靴は知らない——という人が多い。
実は、ノーサンプトンという街には1870年代から靴職人が集まっていて、1873年から1886年の約15年間に、今回紹介する4ブランドが次々と生まれました。Sanders(1873年)・Crockett & Jones(1879年)・Barker(1880年)・Cheaney(1886年)——全員が同じ街の出身で、全員が今も同じ場所で靴を作り続けています。
今回はそのノーサンプトンの4流派を紹介します。「その革靴どこの?」への答えが、150年前に同じ街で靴を作り始めた職人たちの話になる4足です。
ノーサンプトンで1873年に始まった、150年続く最古の流れ:Sanders Holly Derby
Sanders(サンダーズ)は1873年にThomas Sandersがノーサンプトンで創業した靴ブランドです。Church’sが世界的に有名になるより前から、同じ街で靴を作っていた。今もノーサンプトンの同じ場所で製造が続いていて、グッドイヤーウェルト製法を守りながら、ソールを張り替えて何十年でも使える設計が今に至るまで変わっていません。「その靴どこの?」から始まる話の中で、「Church’sより古いノーサンプトンの靴なんだよ」という返し方ができる靴は、サンダーズ以外にあまりない。
Holly Derbyはブラウンとブラックの展開があって、どちらもアッパーの革の表面に「毛穴が見えるくらいの加工感の少なさ」がある——これは革自体の質が高い証拠で、触れると「コーティングされていない」生のカーフレザーの質感が来ます。足を入れると甲のホールドが意外に自然で、「革靴はきつい」という先入観が崩れる。スーツの日も、ジーンズに合わせる日も、同じ靴が自然に収まる。「英国靴を初めて買う人間に勧めるなら、最初の話がちゃんとできるブランドを選ぶべきだ」という観点で、サンダーズはその資格がある靴です。
ジェームズ・ボンドが選んだのはこのノーサンプトンの靴だった:Crockett & Jones Audley Oxford
ジェームズ・ボンド映画でダニエル・クレイグが履いていた靴がCrockett & Jones(クロケット&ジョーンズ)です。1879年にチャールズ・ジョーンズとジェームズ・クロケットがノーサンプトンで設立——当初からグッドイヤーウェルト製法を採用した、産地の中でも職人技術の高さで知られるブランドです。英国陸軍への供給歴史も持っています。「クロケット&ジョーンズって1879年ノーサンプトン創業で、ジェームズ・ボンド映画で使われた靴として有名なんだよ。英国陸軍にも供給してた」——映画を知っている人には、この一文で全部伝わります。
Audley Oxfordを試着したとき、最初に気づくのは「革の締まり方」です——内羽根式のオックスフォードは、シューレースの下の革が甲に沿ってきれいに閉じていて、「紐が浮いていない」というシルエットになる。つま先はラウンドトゥで、英国靴にありがちな過剰な丸みではなく、スーツにもデニムにも調整できる中間の形。「ボンドが選ぶ靴なので奇をてらわない設計になっている」という事前の理解どおり、足に入れると「かかとの収まりが他と違う」という感触が来ます。個人的に、ノーサンプトンの4ブランドの中でもっとも「また試着しに行きたくなる靴」です。英国靴の中でも「話ができる一足」を選びたい人、映画から靴の入口を作りたい人に向いています。
Church’sの隣で140年作り続けた、「次に知るべき」ノーサンプトンの靴:Barker Somerton Oxford
Barker(バーカー)は1880年にArthur Barkerがノーサンプトンで創業した靴ブランドです。Church’sと同じ街、ほぼ同じ時代に生まれて、同じグッドイヤーウェルト製法で靴を作り続けてきた——にもかかわらず、日本での知名度はChurch’sより格段に低い。その差は品質ではなく、マーケティングと流通の差です。「同じ産地・同じ製法・同じ時代」の靴を、Church’sを知っている人に「それ知ってるか?」と出せるのがバーカーの位置で——靴好きとの会話でバーカーを知っている人は、少し先を行っています。
Somerton Oxfordはスムースカーフレザーの内羽根式オックスフォードで、シルエットに余計な主張がない分、コーデへの収まり方が静かです。初めて見た人に「これ、Church’s?」という感想が返ってくることがある——それはシルエットの質感がその位置にあるという証拠で、一方で「Church’sじゃなくてBarkerなんだよ」という返し方ができる点がこの靴の面白いところ。知名度の格差が逆に話のネタになります。30代で英国靴を揃えていきたい人、「Church’sを知っている同僚に差をつける一足」を探している人に、手の届く価格帯で本物のヘリテージを持てる選択肢です。
今も同じ工場で全工程を手がけ続けているノーサンプトンの職人靴:Cheaney Avon R Derby
「今も同じ場所で、全工程を作り続けている」——この事実が、Cheaney(チーニー)を語る一番の入口になります。1886年にJoseph Cheaneyがノーサンプトンで創業し、グッドイヤーウェルト製法の熟練職人として出発した工場が、2026年現在も同じ場所で靴を作り続けています。2009年にはJonathan & William Churchという兄弟がブランドを継承し、独立メーカーとして再出発——現在もファミリー経営で続いています。1886年の創業から137年——同じノーサンプトンの工場で全工程が今も続いていて、2009年に兄弟が経営を引き継いでファミリービジネスとして独立継続しています。産地・継続性・家族経営という3つの話が一足にある靴は、ノーサンプトンの中でもチーニーくらいです。
Avon R Derbyは外羽根式のダービーシューズで、チーニーらしい「実直な作り」が手に取るとわかります。革の厚みが均一で、縫い目の幅が揃っている——「職人が丁寧に作った証拠」が随所にある靴です。足を入れると「かちっとした安定感」がある——インソールがしっかりしていて、一日履いた後も足の位置が「ずれていない」感触が来ます。ソールを交換しながら何十年でも使える設計なので、「この靴を一生使う」という選び方が成立します。一足を長く使いたい人、「今も同じ場所で職人が作り続けている」という話を持ちたい人に向いています。
まとめ:1873年から1886年に、同じ街で4ブランドが生まれた
Sanders(1873年)・Crockett & Jones(1879年)・Barker(1880年)・Cheaney(1886年)——4足全員が同じノーサンプトンで生まれ、今も同じ街で靴を作り続けています。「映画の話」(Crockett & Jones)、「産地最古の話」(Sanders)、「Church’sの次を知っている話」(Barker)、「今も同じ場所で作っている話」(Cheaney)——切り口がそれぞれ違うのに、全員が同じ産地から来ています。
個人的に薦めたいのはCrockett & Jonesです。「ジェームズ・ボンドが選んだ靴」という話は靴に興味がない人にも通じる切り口で、そこから「1879年ノーサンプトン創業で、英国陸軍への供給歴史もある」という話まで展開できる。ひとつのブランドで話が広がる幅が4足の中でもっとも大きく、ノーサンプトンという産地を一足で説明できる靴として最初の選択肢になります。














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